2003.7.31

胃カメラ

武山高之

 

 先日お話した内視鏡によるポリープ手術のついでに、胃カメラの検査もした。

 

 もう20年も前のことになるだろうか、私は医療材料の製造責任者をしていた。当時、製造工程が不安定で、いつも品質保証問題で悩まされていた。工程にトラブルが起こると、私の胃にもトラブルが併発していた。胃の疾患は、精神的ストレスが最大の原因であることを実感した。

 

私は、もともと研究開発から始めたが、生産、事業開発、販売、全体管理と医療材料のいろんな分野を一通り経験した。その中でとくに胃にストレスがかかったのは、生産と販売であった。生産を数日トラブると、すぐに億円単位の損害が顕在化する。販売も同じである。これに比べると、研究・開発も事業企画・開発の成果や損害はゆっくり現われ、責任もぼやけてくる。

 

そういうことで、胃を痛めたのは、生産を担当した時だった。胃カメラのお世話にもなった。当時の胃カメラ検査は、キシロカインゼリーなどの麻酔薬を使っても、かなり苦痛を伴うものであった。

その後、事業全体を見る立場に代わり、全体の責任は増したが、製造現場におけるような、直接的に強いストレスに晒されることは無くなった。そのため、胃の調子も良くなった。胃カメラ検査もしなくなった。

 

今回の検査は十数年ぶりである。久しぶりに、胃カメラを見て驚いた。以前は、親指大であったファイバースコープが小指大以下になっている。飲み込むのにも、抵抗が少ない。胃の蠕動を抑える安定剤を注射したせいか、眠たくなった。看護士さんの「終わりましたよ」という声に起こされるまでは、検査の過程をほとんど知らない。

 

終わったあと、医師にパソコンで写真を見せてもらった。この画像も、大腸プリープのときと同様に、極めて鮮明であった。今度は「きれいです。問題ありません」ということであった。

 

胃の場合でも、小さな腫瘍ならば、内視鏡手術で取れるそうである。これは、内科医でもできる手術である。メスを使う外科医の守備範囲が、内科医によって侵されているとも言える。

 

医療材料・医療機器の仕事を4分の1世紀にわたり担当してきて、機器の進歩も頭の中では知っているつもりだったが、自分の体で体験した進歩の実感はまた格別だった。

 

この医学の進歩は、ほとんどが工学上の進歩である。ファイバースコープとカメラの進歩である。これを使う医師は、多くの収入を得て、豊かな生活をしている。しかし、開発した技術者たちは、それほど豊かな生活をしているわけでもない。会社はそれなりの利益を上げているが。

 

以前、化学工学協会の年会で、「人工腎臓」のレビュー講演をしたことがあるが、そのとき、京大・化学工学教室の吉田文武先生が、

「真の工学・医学の協同研究をスムースに進めるには、まず両方の研究者・技術者の生活水準が対等になることが必要です」

といったことを思い出す。

 ご存知と思うが、日本の内視鏡技術は世界をリードしている。

以上