ベネジクト派メルク修道院

武山高之

 

美術史・建築史の本でロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロック、ロココと覚えても中々身に付かず、時々順序を間違えたりする。この中で、最も判り易いのがゴシック建築で尖がった塔を持つ大聖堂でわかる。今回廻った歴史的建築物は1718世紀のバロック、ロココ風であった。一言で表現すると、絢爛豪華。

ザルツブルグの古い建物は、もともとロマネスク風だったものをバロック風に改装したものが多かった。

 

ウィーンの郊外にあるハプスブルグのシェーンブルン宮殿はフランスのルイ王朝のヴェルサイユ宮殿を追い越そうとして建てられただけあって、バロック風の絢爛豪華な建築は専制君主の宮殿に相応しい。

 

ベネジクト派メルク修道院もまた、バロック風の絢爛と輝く美しい建物である。メルクはザルツブルグからウィーンに向う途中のドナウ河畔にある小さな街である。ここからドナウ河の河下りの遊覧船が出る。ドナウ河は南ドイツに源を発し、オーストリアを通り、東欧数ヵ国を経て、黒海に注いでいる。その小さな街の丘の上に立っているのが、メルク修道院である。修道院であるので、宮殿のように大きくはない。1時間足らずで、全部見られるので都合がいい。

 

球根ベゴニアなどの夏の草花が咲き競う前庭から正門を通り、整ったパティオに入る。豪華に飾られたいくつかの回廊やホールを過ぎ、バルコニーに出る。広大な黒い森とその向こうに、ドナウの河面が光って見える。再び建物の内部に戻ると、中世以来の図書がぎっしりと天井まで詰められた図書館があり、また豪華に飾られたカソリックの礼拝堂が現われる。ちょうど、昼のミサが行なわれていた。

 

私の先入観としてイメージしていた修道院は、カラーの色彩がない空間であった。ちょうど『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくる尼僧院のような。この先入観は、ここで完全に打ち砕かれた。

 

豪華な建物や内装を観ながら、

「何故こんな田舎にこんな立派は修道院があるのだろうか?」

「何故修道院がこんなに豪華でなければならないのか?」

と疑問に思った。

 

当時のメルクは栄えた街であり、修道院は宗教の中心であるばかりでなく、学問の中心でもあった。そこに豪華な建物が建てられたのは、宗教改革に関係があるらしい。北のドイツで起こった宗教改革は南のオーストリアにも影響してきていた。カソリック側としては民衆の気持ちを惹き付けておかねばならない。豪華な建築は民衆の注意を集めるのに効果的であった。

 

ドナウ河の支流のメルク川のほとりで、修道院を見上げながらスケッチを描いた。金色の隈取られた青いドーム、彫刻で飾られた外観、複雑な形のアーチは短時間にスケッチするには難渋した。散歩をしていた中年の紳士が寄ってきて、

「この建物は複雑で、描くのが難しい。イメージを描けばいい」

と励ましてくれた。私と同程度のあまり上手でない英語だった。