2004.10.21

ザルツブルグ(2)

武山高之

 

 ザルツブルグは人口15万くらいの街であるが、世界的に名が通っている。最近では、日本からもザルツブルグ音楽祭に行く人が多い。音楽祭自体は長い歴史があるが、日本から一般人が行くようになったのは、ここ10年くらいではないだろうか。映画『サウンド・オブ・ミュージック』に憧れて行く人もある。この映画は40年ほど前の物であるが、その当時は背景がザルツブルグであることも意識しなかった。

 

 それでも、私は若いときからこの街の名前を知っていた。友人に本読みがいて、スタンダールの『恋愛論』の一節にある「ザルツブルグの塩鉱の中で、塩の結晶が成長するように、愛の結晶が」と書いてあると教えてくれた。私もつられて読んだことがある。ザルツブルグはその岩塩によって富を蓄えた街である。

 

当時は、ツルハシで岩塩を取っていただろうが、最近は水を注入し、溶液にしてパイプ輸送し、再結晶して塩を採るらしい。お土産にザルツブルグの塩をたくさん買った。スタンダールのいう愛の結晶のような岩塩を砕いた物か、水に溶かして再結晶した物かで味が違うのではないかと心配しながら。

 

 今回は食べ物についての予備調査はなく、ガイドの進めに従って地ビールのビアホールなどに行った。そこで、お勧めのシュニッツェルという肉料理を食べた。仔牛の薄い肉をカツ風にしたものである。後で知ったのであるが、この料理はオーストリアの代表的な料理らしかった。

 

ちょうど、アテネ・オリンピックが開催中であり、日本選手の活躍が気になっていた。しかし、この辺りには、日本語の新聞はおろか、英語の新聞もない。ビアホールにおいてあるドイツ語の新聞を見ても、日本のことなど分らない。分るのはメダル数だけである。メダル数の表を探していると、ウエーターが手伝ってくれた。身振りをしながら、

「日本は柔道が強い。メダルをたくさん取っている」

と教えてくれた。

 

もう一つ、旅行中に私の六十九歳の誕生日であることに気が付き、オペラの帰りに皆が野外の雰囲気のいいビアホールで祝ってくれた。そこで食べたのが、薄い小麦粉の皮で包んだパイのようなシュトゥルーデルとザッハー・トルテであった。これもオーストリアの名物料理だった。

 

ここはモーツァルトが生まれた街である。街の至るところにモーツァルトの名前や顔が溢れている。旅に出る前に、大学オーケストラでファゴット奏者をしていた友人から、

「ザルツブルグのホテルで、モーツァルトと注文するとオムレツが出て来るそうだが、試してみろ」

と言われた。

今回は、オムレツを頼むチャンスがなかったが、この話はきっと嘘だと思った。この街は全てモーツァルトなので、何が出てくるか分らない。