2004.7.14

西 村 三千男 記

ガンの粒子線治療法

 

これまで難治療とされてきた種類のガンの治療法として(重)粒子線治療が注目され

ている。昨日、7月13日付け日経夕刊 p.10 「健康・医療」の欄に肺ガンが「兵庫県

立粒子線医療センター」で完治した明るい話題が掲載されている。

 

 関連した多くの情報はインターネットで容易に入手出来るのに、専門知識を持たない

私がここで話題にとり上げるのは以下の事情による。

 

稲毛に「放射線医学総合研究所」がある。平成の初頭、私が電気化学工業の研究所長

であった時、或る研究テーマを持たせて研究員を同所へ国内留学させていた。当時は科

学技術庁所管の研究機関で、現在は独立行政法人化されている。時々研究指導の先生に

表敬訪問していた。その頃ちょうど同所の構内に世界初のガン治療のための「重粒子線

加速装置」を建設中であった。研究所の先生方は誇らしげに「世界初」を説明して下さ

ったが、当方の知識不足のために当時その意義は殆んど理解していなかった。

 

 昨年2003年9月に同所の元所長で顧問の平尾泰男先生が、一般市民を対象とする

講演会で、その治療法の素晴らしい実績を発表されるのに偶然に遭遇した。1994年

からこの施設による治療を始め、講演会の時点で約1600例の実績の紹介であった。

殆どの症例が他の治療法の適用困難なもので、もちろん患者のインフォームドコンセン

トを得て施療したものである。重い副作用を招来した不幸な症例は初期の試行錯誤段階

の20例程度であった。研究成果は極めて満足すべきものであったのに、これまで抑制

的にしか成果発表しなかった理由として「全くの未踏分野」、「思いがけない副作用の心

配」、「ベッド数が少なくて需要に対応出来ない」、「健保の適用が無い」などを挙げられ

ていた。

 

 治療法の原理と実際は放医研や兵庫県立粒子線医療センターのホームページに詳しく

掲載されているが、ここでは概念だけを要約する。従来からのガンマ線や電子線照射は

線源の近く、即ち皮膚表面などが目標のガン細胞よりも強い影響を受けて副作用が強く

なる。これに対して炭素線、ネオン線のような重粒子線は照射深度を調節出来るのでガ

ン細胞だけを叩いて正常細胞への影響を極小化出来る。周囲への照射を遮蔽するのに精

巧に加工された金属マスクが使われる。治療はガン外科医、放射線医学者、物理学者と

マスク作成の為のCG製図エキスパートのチームワークで進められる。因みに平尾先生

は元東大理学部教授の放射線物理学者である。

 

この治療法は難治性のガンとされる脳腫瘍、骨肉腫、肺ガン、前立腺ガン等に特に有

効である反面、胃ガンや腸ガンには適用困難である。固い骨に囲まれた脳腫瘍や骨肉腫

ではピンポイント照射が成立し易く、柔らかく動く胃腸ではそれが難しいからである。

肺ガンには呼吸同期照射法が開発されている。精密な予備診断、マスクの準備、照射の

予行演習のために通院を繰り返す必要はあるが実際に本番照射するのは数分間で済む。

そして2日後にはもう社会復帰出来るそうだ。

 

 放医研の成果が優れていたので2年位前から、他に播磨の SPring 8 付置の「兵庫県

立粒子線医療センター」や筑波大学などでも類似の治療が始まっている。昨年末から部

分的に健保も適用されるようになった。気になる治療費は昨日の日経夕刊には300万

円(自己負担)と記載されていた。平尾先生は質問に対して「高級乗用車1台分の価格

相当」と答えられた。

 

                                (以上)