台風 (9-18-2004)

 

昨日は台風Ivan(日本語読みではイワン)の影響で雨であったが、今日は台風一過の晴天であった。オハイオは海から遠いので台風が直接やってくることはめったにないが、米国の東南部のフロリダ、カロライナ、アラバマのあたりは一年になんども大きな台風にみまわれる。今年はフロリダは二週間ごとに一度大きな被害をうけている。今回のIvanはフロリダの上は通らなかったけれどもその西側を通過したので、風の勢いがつよかった。おまけに台風の周辺で竜巻が起こり死人がでた。

 

台風の周辺で竜巻が起こるのは、次のような現象である。海を通る台風のすそが陸を通ると、摩擦のため陸地の部分で回転速度が減速され、減速されるとそこで気圧の上昇がおこる(ベルヌーイの原理)。もともと台風は低気圧のため起こるが、上空はもっと低気圧なので、地上の空気が上空に吸い上げられるためにおこる。だから、台風のすその一部で気圧があがると、その部分から上昇する空気の勢いが増す。北半球では大気の上昇の結果コリオリの力によって反時計回りの旋回がおこるから、台風も反時計回りの旋回であるが、竜巻もおなじく反時計回りの渦となる。

 

低気圧では大気は上昇し、高気圧では上空から降りてくると覚えておくと、天気図や気象レーダー地図の動画を見るとき非常に役に立つ。低気圧で大気が上昇するとそれを補うために周りの空気は低気圧の中心に向かって動く。このとき地球の回転の影響でコリオリに力がはたらき、反時計回りの旋回がおこる。逆に上空から降りてくると地上では空気は中心から遠いほうへ動くので、コリオリの力の影響は時計回りの結果となる。日本のあたりでも大陸から高気圧が来る時はかならず時計回りに旋回している。また台風が太平洋の西周辺を時計回りに日本へちかずくのは、太平洋の西端で赤道から30度くらい北上したあたりで高気圧が広く張り出してそれを中心に時計回りに旋回があることが影響している。米国の近くでもよく似た現象があり、バーミュダ高(気圧)とよばれている。

 

気象レーダー地図の動画は非常に面白い。こちらでは24時間そればかり放送しているチャンネルがあり、一時間ごとの観測が動画として写される。これは米国全土のと、州の大きさのと、さらに都市周辺の大きさの三種類がある。面白いのは州の大きさの動画で、時々直径30kmから200kmくらいの円形の映像がみられ、一度に2個ないし4個くらい現れることがある。おのおので時計回り、反時計回りとはっきりしていて、前に書いた原理で、そこが高気圧なのか低気圧なのか判断できる。天気予報では大気の水平の流れしか説明しないが、天候は空気が垂直のどちらに動いているかによって決まるといってもよい。

 

ところで今回米国に被害をもたらしたIvanは、上陸する以前最大風速時速165マイルと伝えられた。これを換算すると時速272Kmとなり猛烈な速度である。最大風速時速165マイルというのは、ニューヨークなどの超高層ビルの設計基準を超えている。たとえば911でなくなった貿易センターの設計は最大風速時速150マイルであった。だからもし時速165マイルがニューヨークを襲ったら、ビルは倒れてしまう可能性がある。

 

ニューヨークのビルと台風に関連してこんな話がある。ハドソン川近くのCiticorpセンターは1978年に完成した今も美しい高層ビルである。設計はLeMessurierがおこなった。ビルが完成してまもなく、一人の学生から電話がかかってきて、あのビルは本当に安全なのかと質問された。LeMessurierは名の知れた建築家、一学生の質問をわらいとばすこともできた。しかしかれは、設計計算を見直すことにした。その計算で、設計基準の台風の攻撃を正面から受けたときはよいが、45度の角度から攻撃を受けると危険があることがわかった。それに、設計では鉄骨を溶接することに指定したのに、業者はボルト締めで、ビルを建ててしまったことをビルが完成してから知らされたばかりでもあった。そのときの彼にはいくつかの選択支があった。知らぬことにする、ビルが倒壊する可能性は非常にひくいしもし倒壊しても業者に責任があると言い切れる、あるいは、絶対安全を重んじて破産を覚悟で全てを明らかにする。 かれは後者を選んだ。それから数ヶ月、ビルの補強は夕方5時から朝までおこなわれ、内部の壁をこわして鉄骨をむき出し溶接と補強がおこなわれた。その結果CitiCorpビルは強風に対しては最も安全なビルになったといわれている。費用の大半は建設会社が負担する結果となったが詳細はわからぬといわれている。この話は、多くの事故が設計時の不注意や、危険性に気が付いていても自分たちが裁判に巻き込まれないために口をつむぐなどの非倫理的行為の多いなかで、建設者の良心と勇気をたたえる逸話としてよく引用される。

 

 

参考文献 http://www.predesign.org/citicorp1.htm

 

中村省一郎