2004.9.7

西 村 三千男 記

 

「ルームエアコンの話題」

 

今年の夏は記録的な猛暑が続いた。その影響で家庭用ルームエアコンがよく売れて

冷夏だった昨年と比べて台数で180%の売上と報道された。メーカー別の国内販売

シェアーは昨年3位だったダイキンが1位となり、以下2位は松下、3位は東芝の順

であった。

 

さらに従来はルームエアコンの市場としては小さかったヨーロッパへの輸出が急伸

した。フランスを中心とする昨夏の猛暑で高齢者が熱中症などで大勢死亡した。その

反省からルームエアコン設置がブームとなった。何しろ普及率が極めて低いから砂漠

に水を撒くように売れたそうだ。メーカー各社はチェコ等での現地生産強化を急いで

いる。

 

 今年に限れば売上の律速は営業力ではなく「取り付け工事」と「部品供給」にあっ

たらしい。つまり、営業力とは関係なく「作れただけ、据付工事できただけ売れた」

のである。しかし通常の年は各社が商品力、広告宣伝力などで熾烈な販売競争を繰り

広げている。

 

マイナスイオンで大清快

 1999年秋に東芝キャリア(株)が「プラズマ空気清浄&マイナスイオン」機能

を謳った「大清快シリーズ」を発売して大ヒットとなり、それまで国内販売シェアー

で上位グループにあった三菱電機「霧が峰」、松下電器「Kirei」等を猛追撃し

た。エアコン停止中でも「プラズマ空気清浄機能」を運転しておけば、お部屋の隅々

に迄マイナスイオンが届いて健康によいとTVコマーシャルをガンガン放映した。

 

翌々2001年、我が家の居間のエアコンを別の理由から更新する際に、そんなに

スグレモノならとこの「大清快シリーズ」から選んだ。

 

東大安井至教授 マイナスイオンブームを叱る

 東芝キャリアの快進撃をみて同業他社(ダイキン、松下、日立、三菱電機など)も

軒並みこれに追随しマイナスイオンブームとなった。マイナスイオンをセールスポイ

ントにした空気清浄単機能機や扇風機、ヘヤードライヤー等も売り出された。

 

さらに部屋の装飾品として置くだけで「マイナスイオン」を放出するもの、身に着

けるだけでご利益を授かるブレスレットや指輪のような「マイナスイオングッツ」類

にまでも増殖し、「マイナスイオン」は一種の社会現象になった。

 

 インターネット上で「マイナスイオン論争」が展開された。家電メーカー技術者や

一部学者も参加して賛否両論が闘わされていた。2003年秋になって東大生産研の

安井至教授がこのブームを雑誌「化学」誌上 (Vol.58, 10, p.18, 2003) で厳しく叱

った。

 

その論旨は@空気中の「マイナスイオン」は学術用語ではない。”negative air

 ion”を誰かが呼び変えたらしい、A ”negative air ion”の生体への効果は確認

されていない、B ”negative air ion”は生成したとしても、超微量であり、超短

寿命である、C 学術的に根拠が確定していない「未科学」である。D この様な不確

かなものをT社(東芝キャリアのこと)を初めとする全大メーカーが宣伝販売して、

「トルマリンによるマイナスイオングッツ」等のインチキ商品を増殖させた、E家電

量販店の要求に屈して、大メーカーの研究者、技術者の良心は「化石化」してしまっ

ている、というものである。

 

 遂に東芝キャリアは今年から「大清快」の宣伝に「マイナスイオン」を使うことを

やめた。「プラズマイオンで汚れを除去し、お肌にやさしい」などと修正した。

 

次は酸素エアコン

健康に良いと謳う次のルームエアコンは「酸素富化エアコン」である。松下電器と

三菱電機が既にテスト販売していて、来シーズンから本格販売となる。この原理は給

気の一部を酸素富化膜へバイパスして通すことにより、その出口の酸素濃度を30%

程度まで上げるのである。

 

 勉強会でメーカーの開発当事者から実情を聞いた。酸素富化膜は窒素よりも酸素を

通しやすい選択透過性を応用しているが、水蒸気透過性がもっと高い。このため富化

膜の下流では「望んでいない水蒸気富化」が生じて、環境温度条件によってはドレイ

ンや氷結のトラブルを招来する。この対策を含めて酸素富化ユニットは1台約5万円

のコスト要因となる。このコストをメーカーとユーザーで分担することになる。

 

 室内の酸素濃度をあまり高くするのは技術的に難しいだけでなく、火災予防の見地

からも人の健康の点からも不安である。結局、設計思想は室内酸素濃度を自然環境並

みの21%に維持することに落ち着いた。メリットは時々窓を開けて室内換気をする

手間が省けること位に縮小してしまった。

 

さらに続々と出てくる、何故こんなことに

この後にもルームエアコンのセールスポイントは続々と考案されている。

キャッチフレーズだけを列記する。

「エアコンからサプリメント(ローズマリー成分、ビタミンC)、ナノテク除菌、

カテキンフィルター、エアロテラピー、アレルゲン抑制、シックハウス対策等々」

 

エアコンに限らないが、消費者が購入しようとする家電製品の機種を選定する場合

に性能、価格を比較検討するのは当然であるが、家電量販店の売り子のお勧めが決め

手になることが多い。その売り子は売場で消費者に性能や使い易さを説明するより、

キャッチフレーズの様なセールスポイントを強調する。ユーザーニーズと称するもの

は実は売り子の側のセールストークそのものであることが多い。

 

マーケットインを重視する家電メーカーの営業マンはこのカラクリを承知の上で、

家電量販店が求める「売り易さ」をユーザーニーズであると糊塗して、それを商品設

計に反映させるよう技術陣に要求する。このことが家庭用ルームエアコンで具現化し

たのが「マイナスイオンで大清快」や「酸素富化エアコン」なのである。

 

 これらは明らかに過剰スペック、いや無用スペックである。不要の付加機能を開発

するために投入される研究開発資源が勿体ない。家庭用ルームエアコンは初期投資が

安価で、省エネ仕様で、手入れが簡単なのが一番である。強いて付加するなら連続運

転中に間歇的に部分給排気してくれる機能くらいのものだ。百歩譲っても、ユーザー

はエアコンからビタミンCやローズマリーの成分を摂取することは全く期待していな

いだろう。

 

                             (おわり)