2005..1

西 村 三千男 記

 

本邦ガスクロマトグラフィー事始め

 

第2回 GCと電化クロロプレンのR&D

 

Du Pont 社のネオプレンはGCの実用化より遥かに昔の1930年代に発明された。

昨年、当HPの連載「R&Dの語源」にクドクドと述べたところである。ノートルダム

大学の J. Nieuwland 教授はアセチレンの2量体、3量体、4量体を合成し、全てのア

イソマーズを同定した。一方、Du Pont の W. Carothers グループ はアセチレン3量体

を合成硬化油の原料用として蒸留精製する際に、除去した不純物からネバネバと重合す

る2−クロロブタジエンー1,3(後でクロロプレンモノマーと命名した)を単離同定

した。GCもNMRも存在しない時代だったから、構造決定の主要なツールは精密蒸留

と赤外線スペクトルとであった筈である。対象物が酸素吸収性であり、激しい重合性で

もあって、その操作は難儀なものであったろうと想像される。

 

電化クロロプレン製造プロセスのR&Dには、実用化初期段階のガスクロ(GC)を

フルに活用した。もし分析手段としてのGCが無かったなら、電化クロロプレンはこの

世に生まれなかったかもしれない。例え生まれたとしても、それには莫大な手間隙を要

して1962年よりずっと遅くなったに違いない。当該研究グループのサブリーダーで

あったKさんは世界の先進的な技術情報への感度が鋭敏であった。日本へ輸入され始め

て日の浅いGCを、いち早く研究グループへ導入したのはKさんの功績だったと思う。

 

GCを使いこなすには、先ずGCの原理、構造、操作法、データ解析法等を勉強しな

ければならなかった。米国から導入されたばかりで、日本語で書かれた教科書、成書は

殆んど無く、文献も少なかった。そこで Keulemans 著の教科書の原書(Keulemans A.I.

Gas Chromatography Reinhold N.Y. 1957) を求めて皆で輪読した。また、GCを先導

的に研究していた旧東工試から講師を招いて講演会を催したこともあった。

 

 分離カラムには吸着法カラムと気液平衡法カラムとがあって、前者は無機ガスや単純

な有機ガスに適合し、後者がクロロプレンモノマー周辺の成分分析に適合すること等、

初歩の初歩からの勉強であった。検出器はヘリウムと成分ガスの熱伝導度の差をサーミ

スターの電気抵抗値に変えてホィートストンブリッジで読み取る方式、即ち後にTCD

と命名された方式であった。「そもそもサーミスターとは何か?」から調べたことを今

懐かしく想い出す。出力されたチャートから面積比を計算するのも原始的な三角形に近

似する方法から出発した。

 

電化クロロプレンのプロセス研究は、この迅速、簡便なGC分析によって大いに加速

されたのであった。次回述べる自社製の簡易型GCをどんどん増設し、それでどんどん

分析し、研究は捗ったがGCはどんどん壊した記憶が有る。

 

翻って、ガスクロの恩恵の無かった時代に、ネオプレンのR&Dという高難度の仕事

をした W. Carothers や J. Nieuwland の業績に一層敬服するのである。

 

                              (以下次回)