2005.8.4

西 村 三千男 記

連載「ドイツ化学史の旅のこぼれ話」

 

第12回 トラベラースチェックTCのこと

 

旅の初日、フランクフルト空港に到着してすぐ、川崎さんがトラベラースチェックTCを

両替して多数のユーロコインを入手しようとされた。銀行の両替窓口は、武山さんご夫妻と

到着ロビーで皆さんを待つ間に確認しておいた。そこへ川崎さんをご案内して、両替を待つ

間、交換レート掲示板を眺めていて意外なことに気付いた。交換レートがどの通貨もTCの

方がキャッシュよりかなり不利に設定されていることに。

 

近年、急速にその利用人気が低下したトラベラースチェックであるが、少し前までは海外

旅行の「とても強い味方」であった。TCが隆盛であった当時の交換レートはキャッシュよ

りTCの方が常に有利であった。その理由はTCの事務処理コストを想像すれば当然至極の

ことであった。例えば、1000ドルのキャッシュを紙幣で搬送するよりも、同額のTCを

搬送する方が遥かに安上がりだからである。

 

それでは、当時のTC発行手数料はどうであったか?具体的な数字は忘れたけれど微々た

るものであった。そんな安い発行手数料でもTCシステム全体を維持する経費が賄える秘密

は何か?発行額全体の或るパーセントが永久に交換請求されなくて、その分が発行元の儲け

になるのだと解説されたことがあった。遭難、死亡、犯罪、火災など様々な事情から永久に

交換請求されない部分があろうことは容易に想像出来た。

 

 しからば、現在TCの交換レートがフランクフルト空港で目撃した様に不利になったのは

何故か?ナーンデカ?多分ソレハネ、TCの利用者が少なくなって例外的に処理するので高

コストになっているからであろう。

 

TCのアドバンテージは「交換レートの有利さ」もあったが、むしろそれ以上に「システ

ムの安全性、利便性」にあった。即ち、多額の現金を携行する危険を冒さなくて済むし、盗

難や事故の際には記録さえキチンとしていれば直ぐに再発行される利点である。実際に私は

その利点をフルに享受した経験がある。それは約30年も前のこと。出張先のデュッセルド

ルフ・ヒルトンホテルで熟睡中の私の部屋に盗賊が忍び込み、現金、TC、カードの全てを

持ち去った事件があった。(このこと自体が非常に危険な体験であるが、ここではTCの話

題に集中して記述する。)それは土曜日の夜のことで、翌日は日曜日。TCやカードの届出

に関係するオフィスはクローズが多かったが、ホテルと警察に届け、その他の関係先へはテ

レックスで連絡した(FAXもメールも未発達の時代)。TCは Bank of America 発行のも

のであった。翌日も翌々日も移動日であったが、月曜日にブリュッセル支店に届け出て、水

曜日にアムステルダム支店で、申告した全額を再発行してくれた。自ら事件に出遭ってTC

の利便性、安全性、有難さが身に沁みた。

 

(以下次回)