アリゾナ旅行(12.29.2004)                                                                                         中村省一郎

 

12月半ばにかけて、アリゾナ州のフィニクスに仕事で出かけた。金曜日から週明けの月曜日まで仕事が出来るようにホテルの予約をしてあったが、仕事のほうは金曜日だけで済んでしまった。そこで、あとの三日は久しぶりの見物歩きに費やすことになった。

 

この旅行で使ったレンタカーは、幌つきのジープであった。乗用車に比べると少々乗り心地が悪いが、高速(時速80マイルくらい)でも安定しているし、砂漠の中の舗装のしてない凸凹道にはこれは非常によかった。こんなものを乗り回すつもりではなかったのだが、レンタカーの手続中に、jeepはどうだろうねと一言聞いたばかりに、先方はさっさとジープを出してきてしまったのである。まーいいかと思い、ジープを乗り回すことになった。結構背が高く、一日目は恐る恐るであったが、その後は高速運転も平気になった。

  First experience with a jeep.

    

見物一日目の午前中はフィニクス市の植物園を訪ね、午後はスコッツデール(郊外都市)の繁華街を歩くことにした。広大な植物園のほとんどはカクタス、さらにカクタスにそっくりでいてカクタスではない植物(Euphorbia)もあって非常に面白い。Euphorbiaというのはこのときまで知らなかったが、ポインセチアを含む植物グループで、その中にはカクタスとそっくりの形で、素人には見分けがつかないものが多数ある。カクタスのように見えるEuphorbiaには針がない。その代わり、自己防衛できるように毒性のものが多い。そういえばポインセチアにも毒がある。カクタスとEuphorbiaはもともと全く異なった種属の植物なのに、同じような環境におかれて、よく似た形になったという(conversionというのだそうだ)。ついでながら、カクタスには毒がない。砂漠で水に窮したら、カクタスの樹液を吸へというし、テキーラ酒はカクタスの一種から造る。カクタスの果実は非常に香りがたかい。但し種が多く、ごくわずかな汁と香りを楽しむ程度である。ごく小さいのは私の庭でもなるし(北部の寒さにもたえるカクタスが一種ある)、大きなのは珍しい果実を専門にしている店にゆけばオハイオでも買える。                                          

 Botanical Garden in Phoenix

   

 

スコッツデールはフィニクス市の北東にあってフィニクス市の一部ともいえる。近年急速に大きくなった。その繁華街には無数の画商がある。カメールの目抜き道りをおもわせる雰囲気もある。油絵を好きなように買えるほど金があったらもっと面白いかも知れない。フィニクス市は急速に膨張している都市てある。労働者の住む地域と高級住宅街があって、スコッツデールは後者に属する。なぜフィニクス市はそんなに人が集まるのだろう。カリフォルニアと隣接しておりカリフォルニアと気候が似ているし、土地が非常に安いこと、メキシコ人の労働力が安い。だから企業が移転してくるのである。私がここへ来たのも、そのような産業とある開発の打ち合わせをするためであった。社内を案内されての感想だが、機械の部品を組み立てている多くの米国人の作業員が(いまだにアメリカでも)働いている光景を、気強くなる思いで眺めた。軍需産業、航空産業では、コストが安くても中国やアジアの国には外注しないのである。

 

翌日はグランドキャニオンまでドライブし、途中どこかで一泊してもよいと思いながら出かけた。グランドキャニオンは前にも行ったことがあるので、特に新しいことはなかったが、この一日は意外にも学ぶことが多かった。グランドキャニオンはフィニクスの北方約300kmくらいのところにある。フィニクスからハイウェイを行くと、1時間くらいはカクタスの林が続くが普通の樹木がない。やがて山がみえてくるが、どの山もてっぺんがおなじ高さの平面のようになっている。変な山だなと思っているうちにハイウェイは登りになり、やがて山のてっぺんらしいと思ったところは平原で、そこは針葉樹のある高原であった(ジープの写真を撮ったあたり)。標高1800mくらいのところである。あとで知ったのだが、この高原はグランドキャニオンの高いところと続いていて、標高もほぼ同じという。10億年くらい昔、隆起によって出来たそうだ。北のほうに雪のかぶった、一見富士山を思わせるような山が見えてくる.

 

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このあたりには天然記念物保護地域のようなところがいっぱいあって、2か所に立ち寄った。一つはSunset Crater National Monumentというところで、なんと千年位前に噴火のあった休火山噴火口が主な見物である。溶岩のかたまり(上の写真、中)と火山灰の荒野が何十キロも広がっていた。グランドキャニオンの真東、車で1時間くらいのところである。ここの案内所で知ったのだが、富士山を思わせるような山は矢張り火山(Mt. Hunphrey)で、てっぺんは噴火で飛ばされていた。高さも12900ft(3870m)だから、富士山とほぼ同じ。ただ見るところの標高がすでに2000m近くあるので、富士山ほどおおきな山に見えないのである。このあたり一帯には古い噴火口が300個くらいあるという。グランドキャニオンのすぐ東と南が火山地帯とは知らなかった。グランドキャニオンへ行く人は、これらの火山ことを知っているのだろうか。

それから、道を西方にとり、ググランドキャニオンに着いた。途中霧が深かった。グランドキャニオンは、晴れていたが雪がかなり積もっていた。谷底を見る景色(上の写真、右)はすばらしかったが、雪のため歩き回ることもならず、このあたりで泊まっても面白いこともなさそうなので、フィニックスのホテルまでもどることにした。写真で雪が見えないのは、谷底は標高が低く気温が高い、そのために雪がないのである。

 

 

Pipe organ cactus

 

さて三日めは、フィニックスの南150マイルくらいのところにあるパイプオルガンカクタス-記念地域を見に行くことにした。このあたりの山は非常に奇妙な形をしていて、ここも山は火山灰か溶岩で出来ているのではないかと思われた。また、昨日とは異なったカクタスの林の風景が珍しかった。遊覧道路の奥まで着いたところで、カクタスの林の整備に当たっている管理人としばらく話することができた。彼らの知識の豊富さに驚く。それだけでも、ここまで来た甲斐があった。

 

案内所からメキシコとの国境までは、もうほんの数分のところである。参考のため、行ってみたが人もほとんど通らず寂しげなところであった。メキシコに入れないこともないが、以前にメキシコ市に行ったときに、瓶詰めの水しか飲まなかったのに下痢をして困ったことも思い出し、知らない土地で面倒を起こしたくないので、引き返すことにした。途中国境警備隊にとめられ、メキシコ人を乗せていないかを調べられた。

 

Open cupper mine

 

帰り道をほんの少し走ったところで、石か土砂を積んだような巨大な石山のそばを通る。工場の横を走りすぎると小さな村に入る。民家が100軒もあるのだろうか。その中でスペイン風の真っ白な教会が一際目立つ。すると露天掘銅山博物館というような看板が目に付いたので寄ってみた。確かに露天掘りの鉱山のあとがあり、その向こうの小さな建物が博物館であった。天然の大きな銅の塊が珍しい。いつの時代にか溶岩のなかで出来たものであろう。また種々の大きな鉱石がならべてあって、七色に光る結晶が非常に美しい。しかし訪問者は私だけ、係りの人もいないようにみえたが、かなり経ってから、姿をあらわした。顔をみるなりオハイオという。なぜ私がオハイオから来たと分るのだろうといぶかしく思ったのは間違いで、かれは私を日本人と見て、必死で日本語の挨拶をしているのであった。「おはよう」はオハイオと似ていて覚えやすいので誰かが教えるのであろう。

 

このひとは元理科と数学を教えていた高校の先生ということで、アリゾナの地形や植物、歴史を非常によく知っていた。あんたは機械技師なら、このような砂漠で水が出るように考えてみてくれと言う。冗談じゃあない。しかしなにごとも不可能とはいえない時代でもある。もし砂漠に水を安くで供給する方法を考案したら、とてつもない儲けになることは間違いない。

 

ところで、この村は1980ころまで銅山として栄えたが、その後は掘り出した石を砕いて道路などの材料を作ることが唯一の産業であるという。石山と見えたのは、その材料を積んであったのだ。彼が教えてくれたことだが、このあたりの山には二種類あって、多くは隆起して出来たのもだが、火山の噴火で出来たものもあって、火山性の山は色が黒く、形もずんぐりしている。たしかにパイプオルガンカクタス-記念地域の入り口あたりで見た奇妙な山は火山だったのだ。150F(というと65C)位の温水の出る井戸は広い地域にわたってあるという。硫黄の匂いはないそうだ。アメリカでは、温泉宿を作るという概念がない。(ヨーロッパでは、たとえばバーデンバーデンのように、ホテルの浴槽に温泉の湯が出るところもあるのに。)しかしこのあたりは、高地で雨がほとんどなく、水源がないので、人間が住むには厳しいところであるという。

 

この人は、話好きなのであろう。それともめったに話相手もいないのか、あれもこれも話したがるのだが、暗くなると視力がひどく落ちてぼやけた視野で運転しなければならないので、少々急がないと日の沈むまえにホテルに着けない。

 

でもこの旅行で、フィニクの周りにに広がる高原は、それぞれ異なる時代に起こった海底隆起で出来たこと。それに、火山活動によって出来た山が、アリゾナ中に散らばっていることを知った。フィニクス市の中にも変な形の茶色い山が幾つかあるが、これも火山の溶岩で出来たことは間違いなさそうだ。フィニクス市は、植物といえばカクタスと砂漠特有の低い潅木しか生えない砂漠の中にあり、標高が800mくらいある。北側100km位から始まる標高1500-1800mの高原には雨が降り、川がフィニクス市に流れてくるのでフィニクスには人間が住めるのである。

 

 Raccoon(たぬき) painted on a plane (Phoenix airport).

 

その翌朝は帰途についたが、デトロイトの空港に車を駐車してあるので、そこまで飛んであとは3時間ほどの距離を車で自宅へ帰らなければならない。こんなことになったのは、アリゾナに出る直前デトロイトにも仕事があり、車で出かけたためである。デトロイトは猛烈に寒かった。雲ひとつなく温暖明媚なフィニクスが懐かしかった。