日本の麹と外国

 

東洋の酒つくりでは麹を用いて穀類を糖化させる。西洋の酒には麹ではなく麦芽を用いる。しかし東洋の中でも日本と日本以外の国ではかなり異なる。日本の麹の特徴は、アスパーギラス-オリザエを純粋なものに精製してから麹を作るのにたいして、日本以外では空気中の菌をでんぷんに付着させカビを生やさせ、一度乾燥させてから、穀類に混ぜて醗酵させる。このカビに含まれている自然の麹が主な役割をはたすのだが、他の雑菌も醗酵に影響を与えているはずである。空気中の菌をでんぷんに生やすのを、私も一度試みたことがあったが、顕微鏡でのぞくと多種類の菌が混ざっていて、わけがわからず、アルコール発酵に使う気にならなかった。しかし紫外線を当ててみると、さまざまなのカビのコロニーが青、黄色、オレンジ、赤などの色をだして実に美しかった。

 

日本で麹菌を精製する技術は室町時代には確立されていた。したがって、醸造者(主に社寺)は麹元から麹菌を買った。その精製法とは、麹菌の培養をアルカリ性でおこなうことである。アルカリ性にするためには、椿の灰が最もよいされている。この伝統的手法は、今も全然かわらない。

 

一方日本以外の国で作られる酒は、前に書いたように雑菌が混入しているが、どのような菌がどう影響しているかの分析が難しいようである。中国の酒も本当に安全なのか危ぶむ意見もある一方、何世紀も飲まれてきた酒で、「害があるという証拠はみつからない」という意見がつよい。

 

西洋でも麹を食料に用いることがある。しかし人間用ではなく競走馬の食料用である。競走馬の健康促進と勢力増進には麹がよいことが科学的に証明されているからである。日本では杜氏は麹をよくたべるので年を取っても若々しく長生きすることで知られている。

 

麹は味噌醤油、鰹節、の原料でもあるが、いまや醤油は世界中で調味料としてつかわれている。ルイ14世の調理人は醤油をよく使ったといわれるし、また19世紀のイギリスやフランスの上流階級では日本製醤油を使ったという。しかしかれらの手に入れた醤油はたいていは黒色つきの塩水であったとか。

 

米国において味噌に対する認識も高まりつつある。近年すしの人気が非常に高まり、スーパーマーケットですしのおいてないところが少ないほど人気が高まったのとも関係がある。日本式のレストランの客はほとんどが米国人である。そのレストランで何を注文しても、まず持って来るのが味噌汁であって、味噌汁の味を知る人が多くなった。料理番組でも味噌を西洋式の味付けに使う料理人がでてきた。また味噌が健康食品であると知ると、味はどうであろうと有難がたがって使う人も出てくるのである。しかし日本人が味噌をどのように使うかについては、まだまだ認識が浅く、ある専門家は味噌は日本では主に朝食に使うと説明していた。

 

鰹節でスープをとる米国人の料理人も出てきたことは好ましい。ところが、ある番組で、鰹節はマグロを蒸して乾燥させたものである、と説明していた。本当は鰹を蒸して、麹菌(Aspergillus glaucus)により醗酵させてから乾燥させる。

 

味噌や醤油を作るにはアスパーギラス-オリザエでよいが、醤油にはアスパーギラス-ソーヤという種類の麹を使うところもある。麹が味噌、しょうゆ、鰹節に欠かせない理由は、麹はでんぷんを糖に分解するだけでなく、たんぱく質をアミノ酸に分解するからである。