2005.12.20

西 村 三千男 記

連載「ドイツ化学史の旅のこぼれ話」

 

第21回(最終回)ドイツのブランド刃物「ゾーリンゲン」

 

「ゾーリンゲン」はドイツ高級刃物の代名詞として古くから広く知られてきた。ご存知

だと思うが、このゾーリンゲン・ブランドはメーカー名ではなく、地名ブランドである。

Solingen 市はデュッセルドルフやボンに近い鄙びた小都市である。「関の刃物」、「燕

の洋食器」に少しだけ似ているが、こちらはドイツが誇る世界的ビッグネームである。

 

品質を保障する厳格な組合制度と職人の技能水準を護るマイスター制度との2本立てに

よってブランド価値の維持を図ってきた。中でも J.A.Henckels 社 の Zwillingen 印が

有名で、或る時期ドイツ土産の定番となっていた。どちらのご家庭にも双子マークの付い

たゾーリンゲン製品が何点かはあると思う。我が家にも、自ら購入したもの、お土産に頂

いたものなど日常的に便利に使っているものが多数ある。また、お土産に買って来たもの

を未だ包装したまま放置しているのも幾つかある。

 

ゾーリンゲン刃物の名品 J. A. Henckels 専門店

デュッセルドルフ Schadowplats にあって、永年慣れ親しんできたゾーリンゲン刃物専

門店 J. A. Henckels が、つい数年前に消滅した。ゾーリンゲン刃物もついに斜陽化した

のかと云えば、さにあらず。今回「ドイツ化学史の旅」で最後に訪ねたミュンヘン市の中

心、マリエン広場には J.A.Henckels / Zwillingen 専門店が2店舗も営業していた。

 

デュッセルドルフで消滅した店はゾーリンゲンの中でも主に双子マークの刃物を扱う老

舗で、JTBガイドブックやJALシティガイドマップにも掲載されていた。この店の所

在地 Schadowplats には往時、Bank of Tokyo の支店もあったので、日本人駐在員も、

旅行者もよく行く馴染みの場所であった。誰でもがこのお店で気前よくドイツ土産のまと

め買いしたものだ。日本人客が上得意であったから、商品には日本語の説明書きを付けて

いた。店員は日本語を話せなかったけれど、日本人がお土産用に好んでよく買う品物の傾

向をよくわきまえていて、適切にアドバイスしてくれた。

 

 日本のバブル経済が崩壊した1990年代になると、買い物に慎重になった日本人客と

入れ替わりに韓国人が上得意になった様であった。その韓国人達も1997年のアジア通

貨危機からパッタリと買わなくなったらしい。そしてこの老舗も2002年?ついに消滅

してしまった。

 

 いま、デュッセルドルフでゾーリンゲン刃物を購入するには Schadowstrasse のWMF

専門店または一般のデパートとなる。WMFはゾーリンゲンではなく別の産地のブランド

であるが、ヘンケルが庇を借りて細々と商われている。また、ホテル日航に隣接する三越

店でも売れ筋商品だけは扱っている。どちらも商品の品揃えは貧弱である。

 

ゾーリンゲン刃物にかかわる2~3の思い出話を付記してみよう。

 

職人用洋カミソリとラシャバサミ

1965年のこと。私が西ドイツに駐在員として赴任する話題は、新潟の田舎町では随

分珍しい話題であった。知人ではない若い理髪職人さんが訪ねてきて、恐縮しながら以下

のことを頼まれた。「今度お帰りになる時に、ゾーリンゲンのレーザーを2丁買ってきて

下さい.修業先の親方がゾーリンゲンを大切に使っていて、これだけは触らせてもくれな

かったのです.」と。また洋裁をやっている先輩社員の奥さんからはゾーリンゲンの裁縫

ハサミ(ラシャバサミ)を頼まれた。当時の日本は、意外なことに外貨準備高が少ないこ

とが悩みであったから、この様な雑貨類は潤沢には輸入出来なかったのだろう。

 

爪切りの修理

赴任当初のこと、購入した双子マークの爪切りに不具合が生じて購入店にクレームした

ら、預かって無償で修理するというので驚いた。ハサミでも栓抜きでも修理したようだ。

当時から、ドイツは単純な家庭用品でも、故障しても捨てずに修理してトコトン使い切る

修理大国であった。ゾーリンゲンの刃物に限ったことではなく、靴、傘は勿論のこと、喫

煙ライターまでも修理していた。

 

日常用のBesteche

  デュッセルドルフで6ヶ月の単身赴任を過ごし、やっと家族を迎えて直ぐのこと、毎日

使うナイフ、フォーク、スプーンのセットを購入した。当時は厳しい外貨割り当て制度下

のこと、手持ちのマルク残高と相談しながらステンレス製の中級品を購入した筈である。

それが40年を経過して今なお健在である。見た目もナイフの切れ味も新品同様である。

いまあらためて点検すると一つ一つに双子マークが付いている。あまりの長寿にカミサン

は飽きてしまって、わざと別の物を使っている。

 

鼻毛きり

 随分古い話になるが、円筒形のミニバリカン「鼻毛きり」を見つけた。実用性能よりも

その遊び心とアイデァが面白くて吉澤四郎先生へ託送したのを思い出す。

 

(おわり)