10-18-2006

 

固体醗酵についての考察

中村

 

マオタイ酒の記事を興味深く読ませていただきました。マオタイ酒は中国で宴会などでは必ずといってよいほど出される酒ですが、一口なめただけで、口いっぱいにそのきつい味が廻り、そこでいつもやめてしまいます。中国人からの土産にもらったのが、我が家にもありますが、何年も忘れたままになっていました。高粱から作ることは知っていましたが、固体醗酵とは初耳です。

 

マオタイ酒だけでなく、中国、韓国、東南アジア諸国の酒の作り方は共通して、日本とは異なる点があります。日本では精製した純度の高い麹を使うのに対し、日本以外のアジア諸国では、精製しないものを使うことは良く知られています。もう少しくわしく書きますと、穀物に自然のカビをはやします。白、青、黒、赤、黄色などのあらゆるカビが発生します。これを乾燥してから粉にし、日本の麹種の代わりに使えばよいと考えてよいでしょう。

 

このときに使う穀類、それからカビを生やす時の条件によって、カビの種類や組み合わせが異なることは考えられます。たとえば、韓国では、生の小麦粉をこねてドーナッツ形にしたものを紐につるします。一方ベトナムやフィリッピンでは、バナナの葉に包んでカビを生やすといわれています。

 

沖縄では、焼酎つくりの時は精製しない自然の麹をつかうことが多く、蒸した米を広げておくだけで、白か黒の麹ができるそうです。

 

実は自分で試みたことがあります。といっても沖縄まで出かけてやれるわけもなく、次のようにしました。こちらでは沖縄からは遠くない台湾製の米粉が手にはいります。その中には沖縄の自然にある菌と良く似た種類が混じっているはずだと考えました。そこで、蒸した米にこの米粉をふりかけ気温の高いところに置き、待つこと3-4日、確かにカビがはえていました。色はコロニーによって異なり、白、黒、灰色、黄色の四種がほとんどでした。

 

大学から借り出した顕微鏡でのぞいたところでは、どれも麹の種類のようにおもわれました。また紫外線をあてると、蛍光を発し、オレンジ、ブルー、黄色、真っ赤、実に色とりどりでしばし見とれるばかり。しかし正確には何が生えているのか見当もつかないので、顕微鏡写真を知り合いの日本の麹屋さんの主人でもある微生物専門家に送って問い合わせ、いろいろな意見を聞かせてもらい参考になったとはいえ、専門てきすぎてわけがわからなくなってきました。

 

この麹を使って酒が作れることは間違いないと思ったものの、出来た酒を飲んで見る気にはなれそうにないので、それ以上深入りするのはやめたのです。

 

さて、話をもどしますが、穀類から酒を作るには、二種類の醗酵と糖化反応が必要です。第一の醗酵は麹菌が穀物に発生すること、糖化反応とは澱粉を糖に変換する反応、第二の醗酵は糖をアルコールに変換する醗酵です。第一醗酵の麹つくりが大事なわけは麹菌が糖化に必要な酵素を作るからです。糖化反応では麹の中の酵素が穀物の澱粉を分解して糖にかえます。第二の醗酵はイーストが行ない糖を分解しアルコールと炭酸ガスを生成します。そのガスを利用するのがパンであり、アルコールを利用するのが酒つくりなのです。東洋の酒つくりではこの糖化と第二の醗酵が平行しておこなわれますが、固体醗酵では、第一の醗酵も同時に行なわれるということになります。

 

このイーストですが、日本酒つくりでは酒酵母とよばれ、酒造協会が厳重に管理していて、造酒業者以外は手に入らないようになっています。素人がどぶろくを作るときは、酒造協会の酵酵母は手に入らないので、パン用のイーストでもよいし、ビール用、ぶどう酒用などを代用品として使います。米国内はイースト業者が何種類かの日本酒用の酵母を持っていて、誰にでも売ってくれるので、それを入手しても良いのですが、イーストは自然にもふんだんに存在し、たとえば干しぶどうを酒酵母の代わりに使うと非常に良い結果がえられます。また、醗酵の立ち上げがかなり困難にはなりますが、特別な酵母の種を入れないでも、アルコール発酵が始まることがあります。

 

マオタイを造る時、どのような条件で固体醗酵が可能か考えて見ましょう。蒸した高粱を放置しておくと、空中の麹菌と酒酵母がともに高粱について、活動をはじめると考えてよいでしょう。一度成功すれば、どちらの菌種も建物に住み着きますから次からはやりやすくなるでしょう。しかし一つ問題は、麹菌が活発になるためには穀物が乾燥に近いくらい水分が低いことが大切で、一方酒酵母が活発になるためにはある程度の水分が必要です。ただし、パンの醗酵からも分かるように、アルコール醗酵は、固体に近い状態で醗酵できるでしょう(パンの醗酵はアルコール醗酵)。だから、麹醗酵とアルコール発酵が共存できるためには、日本式の麹つくりよりは、かなり水分の多い状態で醗酵をさせると推定できます。実際、麹つくりになれていなかったころ、酒した米の水分が多すぎると、麹があまりよく出来ないばかりでなく、糖化が始まりグチュっとしたところが何箇所も出来た経験を思い出します。いずれにしても、マオタイでは日本酒では使われていない(やってはいけない)パラメタの領域が使われていると考えられます。

 

同時醗酵に関して、酸素の補給も考え名けれがなりませんね。麹醗酵には酸素の供給が必要で、麹醗酵からは熱がでます。アルコール発酵は酸素には関係なく大気に触れていてもいなくてもかまいません。

 

固体醗酵の利点はアルコールの度を高く出来ることでしょう。ただし、アルコールの収率は高くはないと思われます。アルコール度の高い酒をつくるにはどうすればよいかについては、西洋東洋、これまたいろいろな方法と議論がありますが、長くなりますので別の機会の話題にとっておきましょう。

 

日本酒造りでは麹作りとアルコール醗酵は別の工程ですが蒸した米に麹の種とイーストを一度にふりかけ、両方を同時に進ませたらどうなるか興味のあるテーマです。あるいは、そこまで徹底しないでもアルコール発酵を極度に低い水の量でおこなうとどうなるか、いままで聞いたことも読んだこともないので、新しい日本酒あるいは焼酎の造り方が見つかるかもしれません。