石油危機と黒麹

中村省一郎 (1-12-2007)

 

先日Isomers通信に、植物繊維からのエタノール生産について書いたが、黒麹が主な役を果たしそうなことが分かってきた。

 

黒麹は学名をaspergillus nigarという(略してANと書こう)。黒麹は沖縄、鹿児島での焼酎生産に用いられている。黒酢も黒麹で酒を作り、さらに酢酸菌で発酵させて黒酢にする。焼酎を含め日本酒の醗酵は、糖化とイーストによるアルコール発酵を醗酵槽のなかで同時に行なうのだが、黒麹を使うとクエン酸が大量に発生し、醗酵槽内の酸度を高め、夏の高温の沖縄や鹿児島で醸造しても腐敗が起こらないことが、沖縄や鹿児島で焼酎の生産が盛んな理由であることは以前にも書いた。

 

ANは清涼飲料の用いられるクエン酸製造にも使われ、世界的に99%のクエン酸はAN醗酵である。ANを意識して見たことのある人は少ないであろうが、風呂場に発生しやすい黒カビはANであるし、たまねぎの中にできる黒カビもANである。餅や炊いた米に黒カビができたらANである。倍率の低い顕微鏡でも、菌糸や胞子の頭が良く見えるので、観察をお勧めしたい。

 

ANは種々エンザイムの原料としても重要な役割を果たしている。これらのエンザイムはコーヒー豆の皮の除去、食物の添加剤、消化剤を含む医薬品に用いられている。

 

稲の茎、コーンの幹、草類からエタノールを生産する際、セルローズを分解するエンザイムであるcellulaseが必要で、cellulaseの主な原料は、なんとANである。

 

一方穀類からエタノールを作るには、まずは澱粉を糖に変えなければならないが、このときに必要なのはamylaseと呼ばれるエンザイムで、二つの供給源がある。一つは麦芽であり、もう一つは麹(Aspergillus OrizaeかAN)である。麦芽はビールやウイスキーの生産に用いられ、麹は日本酒や焼酎に用いられる。穀類から燃料用のエタノール生産には、コストのはるかに低い麦芽を使うと考えられる。

 

cellulaseがamylaseを加工して出来るかどうかは知らないが、cellulaseが分解するセルローズとamylaseが分解する澱粉とはアイソマーの関係にあって、化学的に非常に似ている。どちらも分解すると糖になる。だからcellulaseとamylaseは科学的に近い関係にあっても不思議ではないのだ。

 

celluloseからのエタノール生産を考えるとき、黒麹がその鍵を握っていることを知った意味は私にとって大きい。さらに調べたり考えたりするうえでおおきな手がかりになるからだ。ある記事によると、celluloseからのエタノール生産には大量の水が必要であると書いてあった。詳細はいまのところ分からぬが、アルコール発酵では大量の水はいるわけないので、黒麹からcellulaseに変換する段階の化学反応過程でいるのではないだろうか。cellulaseは牛、山羊、羊の唾液と胃液にも含まれている。

 

cellulaseのコストは高いといわれているが、黒麹の生産とcellulaseの過程を改良することは可能であると思う。麦芽のamylaseをcellulaseに変換することは出来ないのであろうか。

 

話がすこし飛ぶが、我が家では秋に庭で出来る大量の落ち葉は全部庭の片隅で堆肥にし、次の年に花壇や菜園の土に混ぜる。花壇や菜園の成功の秘訣である。毎年、木の枝もかなり切るので処理しなければならないが、直径2cmくらいの枝なら堆肥場に積んでおくと、一年くらいでかならず細かい堆肥になってしまう。微生物によるcelluloseの分解であろうが詳しいことは分からないが、かなりのメタンガスが発生していると想像している。

 

近年の油田発見率は極度に悪くなり、石油の価格は急上昇しつずけるであろう。穀類とくにコーンからのエタノール生産は急激に盛んになってきたが、穀類の供給には限度がある。celluloseからのエタノール生産は、まだまだ否定的な見方が多いが、カナダではすでに実用化に成功している。今後急速に発展する分野であろう。私も素人ながら、enzymeの知識を増やして行きたい。