2007.7.31

西村 三千男 記

再編「ポコポコ・イタリアーノ」

 

第6話 真っ赤なオレンジと追憶の名物カメリエレ

 

 真っ赤なオレンジは南イタリアの特産品。今でこそ、日本でもイタリア、その他からの

輸入品が出回って、広く知られるようになっているが、40数年前に生まれて初めてイタ

リアでこのオレンジジュースに出会った時は、「これってトマトジュースじゃないか?」

と当惑した。

 

横浜で行きつけのイタリアン店ではメニューに「ブラッドオレンジジュース¥630」

と載せているが、往時イタリアで「ブラッドオレンジ」と云って注文した記憶は無い。単

に「赤いオレンジジュース」と云っていたように思う。

 

 真っ赤なオレンジにはもう一つの想い出がある。駐在員の頃、ミラノ出張に三井物産ミ

ラノ店が予約してくれた定宿は「デ・ラ・ヴィル(Hotel de la Ville)」であった。そ

このリストランテの名物カメリエレと顔馴染みになっていた。私が1人で食事をする際に

は、彼はイタリア語の先生にもなってくれた。テーブルでのサービスは「曲芸」とでも云

うか、一種のアートであった。例えば、サラダのドレッシングは客の目の前で、客の好み

を「ポコアチェタ」とか聞きながら、大さじの上に酢と油と塩を調合し、フォークでかき

混ぜて仕上げるのである。

 

デザートに「スライスオレンジ」を注文すると、出来たものをキッチンから運ぶのでは

なく、客のテーブル側で例の真っ赤なオレンジを左手のフォークに刺し空中にかざして、

右手のナイフでリンゴの皮を剥くように皮を剥く。後は、普通にスライスし、砂糖を振り

かけて出来上がるのであるが、剥き終わるまで一度も、皿に置くことも、手で触ることも

無いのであった。手品を見ているようであった。このデザートは真っ赤なオレンジには限

らないのであるが、私の追憶のこのシーンは真っ赤なオレンジと共にある。

 

(以下次回)