世界の自家製火酒と合法性

A crude moonshine (samogon) device in an Armenian village.  A crockpot-type still  A worm-type still  

自家製の火酒は世界のどの国にも大なり小なり存在し地方色も豊かであるが、法律で規制していない国もあるし、また厳しく規制している国もある。また、禁止をしていても事実上規制がないに等しい国もある。非合法に蒸留して作られる火酒を英語ではムーンシャインと呼ぶ。

これらの事情を知ることは、楽しみながら世界の文化を知ることになるし、自家製焼酎を世界のどこでやると合法的にできるかを理解するのに役立つ。また、自家製火酒の規制は変わりつつあり、例えば米国では近い将来規制が緩和される見通しである。日本でも同じことが起こるように、火酒愛好者は政府に働きかけるべき時であろう。

 

オーストラリア

オーストラリアでは自家製の火酒は違法ではあるが、その法が適用されることはほとんどない。しかも容量が5リットル以下の蒸留器の販売は、蒸留酒用の材料とともに販売することさえ許可されている。また販売店のよっては25リットル以下の蒸留器の販売を許されているところもある。

ニュージーランド

この国の自家製発酵酒および蒸留酒の法律は最も明快で、合法である。蒸留器の製造販売もまったく自由で、蒸留器輸出が最も盛んな国である。

南アフリカ

果実から造ったマンポア、あるいはブドウから出来たビッツブリッツが違法火酒であるが質が高く、地元住人の誇りでもある。蒸留は違法ではあるにもかかわらず、市場に多く出回っている。

ノールウェイ

この国の酒税が高いため、違法火酒を作る人は多い。とくに中央から北部の農村で多く行われていて、ジャガイモと砂糖が原料である。この国の火酒の一つの飲み方は火酒にコーヒーの味をつけることである。発酵酒を造ることは許可されているが、蒸留は禁止。火酒が造れる蒸留器を所持することも禁じられている。しかし、取り締まりはいい加減なものらしい。

フィンランド

フィンランドでは自家製火酒はポンチッカとも呼ばれ違法ではあるが、販売しない限り検挙されることはなく、趣味にしている人が多い。ヴォトカが主で、穀物、砂糖またはジャガイモを原料とする。

アイスランド

アイスランドでは酒税率が高く市販の蒸留酒が高価なため、自家製火酒はランデイと呼ばれ呼ばれ人気が高い。原料としてはジャガイモが普通であるが穀物も使われる。

ポーランド

ポーランドの違法火酒はビンバーとも、ロシアと同じくサモゴンとも呼ばれている。穀類と果実を原料とする。ポーランドでもっとも単純な火酒のレセピは1410と数字でかかれ、1kgの砂糖、4リットルの水、10dag(100g)のイーストを意味する。これはポーランドとリトアニアとの連合軍が神聖ローマ帝国軍に勝った年、西暦1410年、に符合するのだそうだ。

ロシア

ロシアは自家製火酒の非常に盛んな国であり、サモゴン(自分で蒸留した酒)と呼ばれる。一段式蒸留で出来たものは特にパーバッチと呼ばれ、特有のきつい臭いが残る。それでも安価に作れるので人気が高い。二度あるいは三度蒸留し、白樺の炭でろ過したものは、ヴォトカと区別が難しい。原料としては砂糖が多いが、砂糖大根、トーモロコシ、ジャガイモなどが用いられる。ベニヤ板を材料とする方法もあるというがメチルアルコールではないだろうか。ロシアでの自家製火酒は当たり前のことで、販売しない限り違法にならない。

スウェーデン

スウェーデンの違法自家製火酒はジャガイモまたは砂糖から作られ、日本語に訳すと「森の星」とか「車庫で作るコルバ」とかのあだ名で呼ばれている。自家製火酒の製造と販売は違反であるが、種々の愉快な抜け道が用意されている。例えば、蒸留器の販売は違法ではあるが、その部品の販売には規制がない。また、蒸留器でも、自動車の電池用の蒸留水を作るのは合法で、そのための装置といえば販売が出来る。酒の発酵は違法にならない。

ブルガリア

この国では、ラキアとよばれる果実から造る自家製の火酒が伝統的で、市販のよりも良質で安全性も高いといわれる。以前は自家製の火酒に税金もかからなかったが、2007年にヨーロッパユニオンに参加して以来、政府が税金をかけるように決定した。しかし、実際の税金徴収はないであろうと見られている。

チェコ共和国

伝統的なチェコ共和国の火酒として知られているのは、スリボビツァとよばれる桃を原料とした火酒。以前は車庫や地下室で作られたが、近年は専門蒸留酒業者が作っている。モラビア地方で特にさかんで、祝際日や結婚式で振舞われる。

ルーマニア

ツイカと呼ばれる桃から作るブランデーがあり、農村地帯で伝統的な方法により自家用にも販売用にも作られ、道路わきでも売っていることがあるという。これは違法であるが政府は放任している。

グルジア

グルジアのブドウを原料とする火酒はチャチャと呼ばれ、近代的な施設で出来たものはグルジアブランデーあるいはグルジアブヴォトカとして販売されている。

ドイツ

ドイツでの火酒の自家製は原則としては違法であるが、0.5リットル以下の蒸留器なら違反にならない。それ以上の蒸留器の所有には許可を取ることが必要である。シュナップスとよばれる果実を原料とする火酒がもっとも人気が有る。違法酒が市場に出回らないのは、税率が比較的に安い上、また取締りが厳しいためである。

フランス

フランスでは1950年までは許可なしで酒をつくることができた。またナポレオンの兵士として戦った兵隊の子孫は10リットルまで蒸留することを1959年までは許されたのだが、以後はその権利を子孫に譲ることも許されなくなり、そのような特権を持つ人に数は非常に少なくなってしまった。現在は、果樹園所有者は蒸留酒つくりを許可されているが、10リットル以内なら1リットルあたり7.5ユーロ、それ以上なら14.5ユーロの税が課せられる。

イタリア

以前は、東部イタリアの貧困地帯で違法火酒は盛んであったが、3リットル以上の蒸留器の厳しい取締りで下火になってしまった。とはいえ、それ以下の蒸留器は「自家製火酒は違法」という表示をすれば販売できる。実際イタリア産の小型蒸留器は日本にも輸出されている。

サーデイニア島地方のグラッパはフィルフェッルと呼ばれ、この名は検察に見つからぬよう地中に埋めて隠し後で取り出せるように繋いでおいた針金の呼び方に由来するらしい。

スイス

スイスはアブサンの産地として有名である。アブサンは1920年に禁止されたが、業者は地下にもぐり生産をやめなかった。2005年ヨーロッパ連合になって、その成分などの規制を行うとともに再許可となった。違法生産をやってきたか会社は地下から現れて今は堂々と、ラ-シャンデスタイン其の他の銘柄でアブサンの販売を行っている。

イギリス

何人たりとも政府の許可なしに商業用の酒類を製作販売してはならぬという法律がある。違反者には一千ポンドの罰金と器具の没収が課せられる。ただし、自家消費及び従業員が消費するための発酵酒は違法とならない。

ミヤンマー

販売されている多くの火酒は違法に蒸留されたものであるという。農村では椰子の実から作る酒もある。

ネパール

自家製の火酒にラクシというのがあり粟(あわ)からつくられる。しばしば不純物があって失明を起こすといわれている。

パキスタン

アルコールは厳重な許可制下にあるにもかかわらず、とくに農村地帯では無法酒造が絶えないといわれる。北方地帯で果実は豊富な地方ではブランデーもつくっれている。しかし、地方によってはメチールアルコールの害が深刻である。

日本

日本では、別の節でも書いたが、明治半ばまで自家製の醸造が自由であったが、日露戦争後から第一次大戦までにかけて法律が変わり、それ以来現在も、自家製の醸造はもちろん蒸留も禁じられている。しかし農村ではどぶろくの自家製が絶えず、どう隠したかとか、どう警察を騙したかなどのさまざまな話が農村文学といわれるまでに、多く書かれた。自家製のどぶろくが見つかり、散々税務署にしぼられた会社員の話なども、さほど古いことではない。しかし近年自家製のどぶろくや近年自家製焼酎への関心が高まり、ある調査によれば、インターネットのウェブサイトの数は、自家製どぶろくに関して2万5千、自家製焼酎に関してもほぼ同数あるという。米国では、自家製の発酵酒(どぶろくを含む)は許可されいて、自家製の火酒も許可される方向へ向かいつつある。日本でも同じことになることが期待される。焼酎の作り方は、農村文化協会により何冊か出版されている。

ブラジル

完全に合法ではないが、ブラジルでは自家製火酒は、とくに農村の長い伝統になっていて、良質のものが多い。

メキシコ

メキシコではコッパーキャニオン地方で、レチュグイラと呼ばれる違法の酒が公然と飲まれている。

コロンビア

コロンビアでは違法火酒はタペチュサと呼ばれるが、ある地方では非常に人気があり長年の伝統になっている。市販のものに比べると格段に安い。コロンビア原住民からひきつがれた、トーモロコシを原料としたチチャとよばれる酒がある。チチャは火酒というよりは発酵酒で、日本でも平安時代まで行われた噛み酒の方法で作られ、南米の各国のインテイオに広く知られ、さまざまの材料でも作られてきた。現代では下火であるが、血圧をさげ、また前立腺にも効くという効果が注目されている。

ペルー

自家製火酒が合法的である少数の国の一つであり、自家用、営業用ともまったく規制がなく、日常の食事で飲まれる。ペルーでよく知られているのはピスコという酒で、アルコール度は低く子供も飲むといわれる。またペルー原住民から受け継がれたチチャという酒がある。

カナダ

カナダでも米国と同様に違法火酒はムーンシャインと呼ばれる。以前はカナダのクベック地方で生産される火酒はじゃがいもを原料としたが、近年は黒砂糖が原料にされている。しかし取締りが厳しく、自家製の火酒は非常に下火であるらしい。ただし、自家製のビールとワインは違法でない。

 

アメリカ

Moonshine, it was incorrectly assumed that the blue flame means it may be safe to drink.メーソンジャーと青い炎で燃える違法火酒

 

アメリカの違法火酒は厳しく禁止されているにもかかわらず、その製造は現在も盛んでムーンシャインと呼ばれ、アパラチアン山脈地方、特にオハイオ南部、ケンタッキイおよびテネシイ東部、さらにカロライナやノースカロライナの西部が主な地域に多い。メーソンジャー呼ばれる保存食を瓶ずめするための瓶に入れて運ばれる。原料としてはトーモロコシあるいは砂糖がつかわれ、典型的な例では、一業者の生産量は一週間あたり1000ガロン(3600リットル)、その営業主の収入は週6000ドルにのぼるといわれる。違法火酒は税がかかっていないので、市販の火酒よりも格段の安値で販売ができるのである。

米国での家庭でのビールおおびワインなどの発酵酒作成は1978に合法化された。自家蒸留酒も合法化の動きがあり、2001年許可の法案が連邦政府の議会に提出されたが、通過しなかった。しかし再度提出される見込みである。

違法蒸留酒、ムーンシャインは米国の庶民文化にも大きな影響をあたえた。ナスカー(Nascar)と呼ばれる自動車レースがあるが、ストックレースともよばれる。その意味は在庫車つまり在庫が少なくとも500台はある一般乗用車が争うレースである。そのレースの初期の多くの優勝者は、ムーンシャインを運ぶ運転手で占められていた。彼らは取締りの政府役人たちから逃げ切るための運転技能はもとより、エンジンを改造しての馬力をあげる技術に極度に優れていた。それがストックレースに大いに役立ったのである。またオールズモビル-デルタ88モデルのごとく、優勝した車種の売れ行きが飛躍的に向上したので、自動車メーカーたちは競ってストックレースレースの選手に好まれるような設計をした、というわけで自動車産業にも影響をあたえた。

ノースカロライナ出身のジュニアージョンソンはそのようなレースカー選手の一人で、彼の働いていた違法火酒醸造所のあったストックデール市では、市の公式のシールにムーンシャイン蒸留器の絵が含まれている。(下の絵)

また、ムーンシャインの火酒にちなんだ合法的な火酒がメーソンジャーに入れて、ジョージアムーンコーンとかバージニアライトニングなどの名で売られている。