幹細胞・再生医療と応用化学との近い関係

 

武山高之(2008.6.8

 

旧聞になりますが、西村君に誘われて、藤牧君と三人で、「iPS細胞(人工多能性幹細胞)研究の展望と課題」シンポジウム(4月15日 津田ホール)を聴講しました。昨年末以来、iPSについては、新聞・テレビ・雑誌などでセンセイショナルに報道されているので、皆さまよくご存知だと思いますが。

 

1.iPS細胞技術と応用化学は近い関係にある

この機会に、話題のiPS細胞とアイソマーズの皆さまが学んできた応用化学との関係について、お話したいと思います。iPSは我々の専門にも意外と近い存在です。

 iPSそのものについては、要領よく纏めた毎日新聞の解説を西村君から頂きましたので、次に添付します。ご覧下さい。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080513ddm010040166000c.html

 

このほかに、『NEWTON』20086月号および『日経サイエンス』20086月号に詳しい解説があるので、参考になります。細胞生物を勉強するには、「放送大学」という便利なものがあります。

 

2.京都大学再生医科学研究所‐前身の生体医療工学研究センター長に工化会出身者が‐

話題の人、山中伸弥教授は現在、京都大学物質‐細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター長ですが、1月までは再生医科学研究所教授でした。再生医科学研究所は10年前の1998年の設立ですが、その前身組織の一つが生体医療工学研究センターでした。1990年〜1992年のセンター長は筏義人教授でした。筏さんはアイソマーズと同期の繊維化学出身です。この分野は医学と工学とくに高分子化学との融合分野であることを意味します。

 

3.手元にある2000年および2001年発行の “再生医学の総説”は医学者と工学者の共同執筆です

 私は東レを退職した後、2002年に「ナノ制御複合材料の技術動向」という調査報告を纏めました。医療材料の専門家らしく「再生医学」の項を付け加えました。その時に次の二つの総説を参考にしました。

浅島、岩田、上田、中辻編『再生医学と生命科学‐生殖工学・幹細胞工学・組織工学』(「蛋白質・核酸・酵素」増刊号)共立出版 2000

筏義人編『再生医工学』化学同人 2001

 ともに、医学者と化学者の共同執筆です。幹細胞工学・再生医学に応用化学とくに高分子科学の関与が大切なことを示しています。日本における幹細胞工学は10年ほど前に始まりました。

 

4.いろいろな幹細胞がある

上記の総説にはもちろん、iPS細胞も山中伸弥教授も出ていません。受精卵から取り出すため、倫理的にも技術的にも問題が多いES細胞(胚性幹細胞)と体性幹細胞の骨髄性の幹細胞が主体です。ただ、これらの幹細胞で確立された手法はiPSにも適用可能なので、将来は特許問題が起こってくる可能性があります。

 

5.日本再生医療学会・日本バイオマテリアル学会−構成員は医学者と化学者−

 再生医療に関係した学会は日本再生医療学会があります。設立してまだ、10年にもなっていません。昨年の総会の会長は東京工大の赤池教授でしたが、化学者です。

日本バイオマテリアル学会でも幹細胞工学の報告が多くなっていますが、こちらは私も会員です。バイオマテリアル学会で医療材料の研究に携わっている化学者が幹細胞工学に重点を移してゆきそうです。

 

6.生分解性、温度応答性高分子、生理活性物質複合高分子の利用

 最初の幹細胞の利用法は幹細胞を単独で体内の注入することです。最近行われているのはこの方法が主体です。

しかし、将来は細胞シートの移植、さらに三次元構造体の移植が考えられます。細胞シートを作る時に温度応答性を持つ高分子を使うと容器からきれいにシートをはがしとることが出来るようです。三次元構造体を作る時には、足場材料として生分解性高分子が期待されています。形態としては微細な繊維集合体状など。さらに、細胞培養の制御に細胞成長因子や制御因子を結合した高分子材料が考えられています。これらは私たちが医療材料として研究してきたことの延長上にあります。

これらの技術は革新的ですが、従来の大企業の体質に合うかどうか疑問に思います。

 

7.我々の病気治療に間に合うか

 アイソマーズの皆さまがiPS細胞を用いた治療の恩恵に浴するか否かはわかりませんが、骨髄性の幹細胞の利用はまさに始まろうとしています。

脳梗塞・心筋梗塞・肝硬変・糖尿病の重症例などには、「高度先進医療」として、使われる日も近いのではないでしょうか。運悪く重症になり、運良く再生医療のお世話になることもあるかもしれません。