製造業衰退と魚養殖の増加

 

英語のフィッシーという言葉は、魚くさいという意味と、怪しいという意味もある。アメリカには魚を嫌う人が多い。それもそのはず、生まれてから魚を一度も食べたことのない人も多いからである。もし食べたとしても、一度でも小骨がのどにつっかえるようなことがあれば、外科医の病院でレントゲンをとり、のどに麻酔をかけて骨をとってもらう羽目になる。そんな経験の持ち主は、その後は絶対に魚を食べようとしない。だから食料品店の魚売り場でも、お客に訴訟をおこされぬよう、でっかい魚の絶対に骨のないところをぶつ切りにて売っている。

 

とは言え、ミシシッピー州のごとく、魚の養殖のさかんなところもある。ミシシッピー州での魚の養殖はナマズである。ナマズの大きいのは体長60cmくらいになるから、骨のない切身にするにも適している。ミシシッピー州にもコロンバス市という同じ名前の町があるが、そのあたりでは、魚の養殖には四角い田んぼのような形の大きな池がいくつもいくつも並んでいて、その中にナマズがごっちゃり泳いでいる。その地方へ行くとレストランのメニューは、どこもかしこもナマズの料理ばかり、学会の晩餐会もナマズといった具合で、うんざりしたことがあった。ナマズは気温の高い地方でよく繁殖し、また温度の高い水に耐える強い魚である。だから、発電所の冷却水の貯水池で養殖をおこなっているところもある。ボイラーの熱交換器から間違って温度の高い水が流れてきても、生き抜ける魚とうわけだ。

 

アメリカ大陸の魚養殖はナマズ以外にも、えびのほか、イズミタイ、黒バス、虹マスである。湧き水の出るところはもちろん、井戸水でやっているところが多い。そして、養魚場の数はここ数年急激にふえた。魚を食べることの重要性が少しずつ理解され始めたのと、アメリカの製造業衰退の影響もあるだろう。

 

アメリカの製造業の多くは中国と競争できないので閉鎖される。すると、機械類は中国が何もかも買い取って運んでゆくのである。残るのは、工場の建物だけ。養魚場というのは、太陽光線は必要ないので、水さえ確保できれば、この様な工場の建物のなかでも出来る。しかも魚は牛肉の倍くらいの値段で売れるから、技術を会得し、魚の臭いをいとわなければ、オハイオだって魚の養殖はいくらだって出来るのである。