日経新聞 人間発見『テルモハート会長 野尻千里さん』を読んで(2)

 

武山高之

 

30年ほど前、人工腎臓の開発生産化を終えた、私たち東レのメンバーは、医療分野における次の研究目標を検討していました。その中に人工心臓もありました。

当時の人工腎臓は拍動型。東大で渥美和彦先生のヤギ実験を見せて頂いたこともありました。

クリーブランドクリニックの能勢之彦先生も日本に帰国する度、人工臓器の大切さを工学関係者・企業関係者に焚き付けておられました。非常に人懐っこく、皆を友達にして(女性は恋人といって)。

我々に期待されていたのは、東レに技術があったセグメント化ポリウレタンや抗血栓材料でした。しかし、研究テーマを他のテーマに集中することになり、人工心臓は断念しました。

 

 その後、テルモ株式会社は、コルフ先生と一緒に、世界で始めて人工心臓の動物実験に成功された阿久津哲造先生を向かえ、人工心臓に取り組みました。また、銀行から和地孝さん(後の社長、会長)を迎え、業績を改善、大医療機器メーカーに成長してゆきました。野尻さんが入社されたのはこの頃だったのではないでしょうか。

この間、学会では拍動流と定常流の人体(動物実験)に及ぼす影響もたくさん報告されていました。一つの大きな話題になっていたようです。

その結果、定常流でもよいということになったのでしょう。これは、鳥を真似て作った飛行機が、羽ばたく羽根ではなく、プロペラやシェットで実現したのと対比されています。

 

 医療機器の新製品を開発するには、技術・知恵・人の和・情熱、それにもまして、お金だと思います。技術は、工学的技術と医学的技術の協力です。野尻さんの成功はほとんど半世紀に渉る長い人工心臓開発の、恵まれて、重要なポイントだと思います。コルフ先生、阿久津先生が動物実験を始めたのは、1957年でした。