日経新聞 人間発見『テルモハート会長 野尻千里さん』を読んで(3)

‐医工協力と産学協同‐

武山高之

 

 人工心臓が「アイソマーズ通信」に登場したのは、西村さんが紹介した日経新聞『交遊抄』のNTN鈴木会長の野尻さんとの交遊の記事でした。医工協力の記事でした。連載の第4回に、磁気浮上型遠心ポンプを考案した京大機械工学科の赤松映明教授(当時)とベアリングメーカーNTNとの共同研究の話が出ています。

 

 医療機器の開発には、医工協力と産学協同が不可欠です。我々・工学系出身者の存在価値があるわけです。ここでは磁気浮上型遠心ポンプの考案が小型化に決定的な影響を与えているようです。

 

 私が携わっていた人工透析器も当初は平幕を使い、洗濯板のような大きなものでした。そこに、小型化の要求が出てきて、中空糸化の流れが出始め、私たちも、その流れに乗りました。中空糸化による小型化は、大量生産、コストダウン、病院における操作性の改良にもつながり、いまは全て中空糸型に代わりました。

 人工心臓における遠心ポンプの成功は、人工透析における中空糸化に対比される重要性があると思います。

 

 今後は遠心ポンプが主流になりそうですが、競争相手もあり、是非、この日本発の技術が世界に羽ばたいてもらいたいです。医療機器技術の中で、内視鏡は日本がナンバーワンですが、他は欧米発信のものが圧倒しています。関係者歯痒い思いをしています。

 

 20年前に私たちは、井上寛治先生と協同で、「イノウエ・バルーン・カテーテル」を開発しました。左心房と左心室の間にある僧帽弁の狭窄治療のためのカテーテルです。このカテーテルは珍しく日本発の製品で、売り上げ規模は大きくはありませんが、世界70カ国以上に売れました。「日本発の新製品」ということが話題になり、井上先生は日本心臓学会の栄誉賞を受けました。この栄誉賞は井上先生のために、特別に作られた賞でした。

 

 医工提携について、30年ほど前に私たちが化学機械を習った吉田文武先生が化学工学協会シンポジウムの医工学で「今後、医学と工学の協力が益々重要になる。工学の立場から大いに発言して、収入も医学者と並ぶようにしよう」とはっぱを掛けられたことがあります。私は人工腎臓開発の発表をしていて、先生は座長をされていました。 先生が18年前に書かれた『化学工学と人工臓器』(酒井清孝共著、共立出版)は今でも標準的は教科書になっています。

 その後、私は幾つかの新製品開発を手掛けましたが、先生の教えに従い、医学者に対して遠慮なく発言してきました。残念ながら、収入は医学者に遠く及びませんが、新製品開発も順調に進みました。協同研究をしてきた医学者とは、今でも親密な関係にあります。

 

 産学協同では、医学会での思い出があります。滋賀医大の谷 徹先生が「敗血症治療吸着カラム」の臨床報告をしていた時、「先生の所はなぜ、産学協同が上手く進むのですか?コツは何ですか?」との質問があり、フロワーに居た私にも意見を求められたことがあります。「別に特別なコツはありませんが、医と工が互いの立場を尊重し、遠慮なく議論を戦わすことでしょう」と当たり前の返事をしたことがあります。

 

 テルモの人工心臓の場合は、医工・産学の協同が上手く行っているように見受けられます。