2009.8.17

西村 三千男 記

 

 

ノルド・ストリーム(ロシア天然ガスのバルト海海底パイプライン)

 

ノルド・ストリームをご存知だろうか。それはバルト海の海底1200キロメートル

に敷設される天然ガスパイプラインの事業会社の社名である。去る2009.8.9に

テレビ東京で放映された「日高義樹のワシントンレポート」から(私にとって)驚きの

内容を紹介しよう。

 

成否不明の夢のプロジェクトではない。もう既に着工されていて、2011年には第

1期分は竣工して、送ガスが始まる見込みだという。ノルド・ストリーム社の資本構成

はロシア資本51%/ドイツ資本40%/残りはオランダ資本から成り、スイスに本部

を置いている。ドイツ資本の半分(全体の20%)は大手化学会社のBASFが出資し

ている。事業会社の総裁にはドイツの前首相シュローダー氏が就任している。このプロ

ジェクトはロシアのプーチン首相とドイツのシュローダー氏との厚い信頼関係があって

成立したと云われているが、ドイツのメディアには前首相の個人的欲望が絡んでいると

批判する評論も多い。

 

 パイプラインが敷設されるコースはネット検索すれば地図で示されるが、起点はロシ

アの港ヴィボルグ(Vyborg)、終点はドイツの港グライフスワルド(Greifswald)である。 

沿岸のバルト3国など当事国以外の7ヵ国は環境問題、安全問題を理由に反対したが、

プーチン/シュローダーの強力なスクラムで押し切った。2年間環境アセスメントが

2009年5月に終了しているし、海底パイプの腐食懸念には、天然ガスではなく原

油ではあるが、北海油田で6000キロメートルの実績がある。

 

2011年に第1期分が竣工すると、275億㎥/年、第2期を合わせると550

億㎥/年(ヨーロッパの将来需要の増分の25%に相当)を送ガスする計画である。

これで、ドイツの一次エネルギーのロシア依存率は現状42%から60%へ増大する

ことになると見込まれている。エネルギー安全保障の面から問題視する論調もある。

先年ロシアは、反ロシア的な政策をとるウクライナに対して、厳寒期にガスの供給を

停止する強硬措置を実行した。その巻き添えで影響を受けたEU諸国は、ロシア支配

以外のルート(例えばトルコ経由)からのガス供給を模索している。ドイツはEUの

中で特異な道を取り始めたのかも知れない。

 

そもそも、ドイツ人は旧ソ連嫌いであった。40数年前に私がデュッセルドルフに

駐在していた頃は、東ドイツや隣国ポーランド、ハンガリー等は、実質的には旧ソ連

に占領されているのだとして、旧ソ連に対する国民感情は極めて悪かった。しかし、

幾星霜過ぎて、シュローダーは首相在任中も露骨に反米〜親ロシアの姿勢であった。

現在のメルケル首相も左派SPDと大連立していることもあって、少なくとも反ロシ

ア的ではない。

 

一方のプーチン首相は、大統領時代のエネルギー政策が図に当たって、7%の経済

成長を達成し、大国ロシアの復活に成功した。昨年来の世界経済の大変動で、原油と

天然ガスの価格は調整期にあるが、中長期的には強気が唱えられている。英国BPの

調査(2006年)では、ロシアの天然ガス埋蔵量は47兆立方メートルで、全世界

の26,3%に相当すると推定されている。今後も、天然ガス供給を、外交や経済発

展のために戦略的に活用すること必定である。

 

                               (おわり)