午後のフィレンツェ

 

このあたりの道にも慣れたので、サンドナト村からフィレンツェまではほんの20分ほどで、町の見下ろせる高台に出た。古い映画だが、オリビエがスリの役を演じる「Little Romance」という映画があった。その話は子供の恋の話で、パリ、フィレンツェ、ヴェニスが舞台となったが、オリヴィエがフィレンツェで自転車レースの選手に成り代って警察官の目をのがれる場面は、この高台で撮影したのに違いないと思えた。(余談だが、オリヴィエと男女の子供たちがアメリカ人に車に乗せてもらって、フランスからフィレンツェまで来る途中、オリヴィエが財布を盗むのだが、その垢抜けのしないアメリカ人がオハイオ州コロンバスから来たというので、苦笑した覚えがある)

 

さて、有名なフローレンスドオモと呼ばれる寺院の方へゆくと、知らぬ間にその正面玄関前の大きな広場に車で入ってしまった。ところが観光客でものすごい人ごみ、大きな広場を、黒山の人が思い思いの方向に歩いている。その人ごみの中を、徐行して進むのはそうとうな辛抱が要った。他の車の姿は全くなく、立ち入り禁止のサインを見落として、こんなところには入ったとしか思えなかった。検挙されるのではないかと恐れながらも、近くにいた警察官に、どうすればこの混雑から抜け出せるかを聞いたら、英語で説明してくれた。わかった、とうなずいたのだが、はっきり礼を言わなかったら、彼は「有難う、いいえ、どういたしまして」と自分で日本語で言っていた。

 

猛烈な人ごみを、やっとの思いで抜け出したものの、近くに駐車することはまったく不可能であったので、車から出てこのあたりを歩くことを事をあきらめた。

 

夕食時までにはサンドナトスの宿に帰り、マラスピーナB&Bを教えてくれた友人が、そのすぐ近くにすばらしいレストランがあり、「そんな美味しい料理のレストランはそれまで行ったことがない」、とまで言っていたので探したら、なんと昨日テーブルをのけて貰ってやっと通りぬけたあのレストランであった。(下の写真では車の通れる幅はまだあるが、時間とともにテーブルの数が増え、日が暮れるころには、道一杯になってしまう。)

 

レストランの主人は60歳に近い男で、英語は片言であったが、冗談をしょちゅう言いに来た。「このレストランは有名なので、世界中からお客が来る」と自慢していた。最初のオードブルのアーテイチョーク(巨大アザミのつぼみ)は、アメリカのと違って、小つぶで味がよかった。しかしメインコースは、ひどく塩辛い上、フライパンに長いこと置きすぎ、乾燥でかちかちになったような食べ物で、一口食べただけで、それ以上は食べる気にはならなかった。有名になったレストランには往々にして、このようにまずいところが多い。