アンチョビ

 

筆者がアメリカに住み始めた最初の20年くらいは、日本食が乏しく、恋しかった。そのころ、それは塩ずけのアンチョビを知ったのである。体長4-5センチくらいの塩ずけにしたアンチョビの頭も骨も抜いた身だけを、オリブ油に漬けて小さな缶詰にしてあった。これは、少し苦味があり、干いわしとも共通した味があり、西洋風のいわしの塩辛といったらよいかも知れない。相当塩辛いのだが、ご飯にのせると非常に旨いのでよくたべた。

 

アンチョビはアメリカのたいていの食料品店の特殊品コーナーで買えるのだが、アンチョビはピッツァの具としてのせること以外に、西洋料理にどう使えばよいかを知っている人は、まずいない。知っていいる人は、かなりの料理通といえる。

 

それから20年もたってから、スペインのバルセロナに行く機会があって、散歩がてら市場に入ってみたら、ばら売りのアンチョビが山積にして売っていた。魚の体長も缶ずめのとは異なって馬鹿でかかった。汚らしくはあったが、馬鹿に安く、珍しいので200gほど買ってみた。昔の日本でやっていたように、新聞紙に包んでわたしてくれた。アメリカの自宅に持ち帰り、おそるおそるっご飯にのせて食べてみると、これは驚き、缶詰よりはるかに旨いではないか。

 

そのとき以来、外国旅行をするときはその土地の市場をのぞいてアンチョビを買う努力をしてきたが、バルセロナ以外では見つからない。アンチョビの製法の詳しいことはわからないのだが、生のアンチョビに塩をくわえ重石をして発酵させるのではないかと思う。生きているアンチョビに出会ったのは、それから10年もたってから、娘がサンフランシスコで結婚式を挙げた直後であった。結婚式も終わり、オハイオに戻るまえに、サンフランシスコから車で2時間ほどの距離にある松林の美しい海岸で有名なカメールを訪れた。そこには水族館が出来ていて、水槽の一つにものすごい数のアンチョビが一斉に同じ方向に口をあけて泳いでいた。

 

ここでの大発見は、アンチョビの口は、開くと体の丁度倍くらいになることだ。顎の下のほうがおおきく、大きな網を体の前に取り付けて泳いでいるようなものだ。横から見ると、開いた顎は矩形型に下向けに下りている。前向きに泳ぐと水が流れ込み、プランクトンは口の中で篩いにかけられ、水はえらから排出しているのである。

 

アンチョビが鰯に近いことは味から分かっていたが、日本の鰯とどういう関係にあるのか気になっていた。アンチョビは温暖な浅海を好む海水魚で、地中海に多く生息し、イタリア、南フランス、スペインで多く水揚げされてきた。タイやベトナムでは魚醤の原料につかわれる。そして、日本では「かたくちいわし」と呼ばれ、煮干にして味噌汁やうどんのだしに使われる。(ナーンダ、ソーカ、って?)     中村 (5-3-09)