ハドソン川のうなぎ

 

世界のうなぎの種類は約600種もあって、韓国、中国はもちろん、オーストラリア、アメリカ大陸、ヨーロッパ各地に分布している。淡水魚ではあるが産卵期には海へでて、例えば日本のうなぎはフィリッピンの近くまで行って産卵し、稚魚が日本の河川へやってくることが知られている。だから世界中のうなぎは海で何かの交流があっても不思議はない。

 

ロンドンのテームズ川のほとりにうなぎを食べさせる店が何軒かあったという話だが、近年はテームズ川のうなぎの収穫が激減して値段がひどく上がってしまったという。イタリアでもうなぎの人気は高く、特にクリスマスの晩餐で食べるという話を、祖母がイタリア人からアメリカに移民したという友人から聞いたことがあった。

 

筆者がアメリカに住みついたころは、うなぎの蒲焼などは手にはいらなかった。そこで、クリスマスのころイタリア人の経営する食料品店へ行ってみたら、確かにうなぎを売っていた。どこで取れたのかをきいたら、ハドソン川という答えであった。長さが1m近く、直径5cmはあっただろう。友人の家を訪問する途中であったが、とにかく2匹買った。友人の家では、うなぎと聞いてみな目の色を変え、ぜひ蒲焼にしようという相談がまとまったのだが、だれが割くかという段になって、結局釣りの経験のある筆者が選ばれた。

 

台所にあった包丁はどれもひどかった。素人が何十回も磨いだらしく、まっすぐなはずの刃は、中国古代のセイリュウトウのごとく湾曲していて、そのくせ切れがひどく悪かった。うなぎを割くのには普通錐で頭をまな板に固定して、頭から尻尾のほうに包丁を入れてゆくのだが、そのような道具はあるはずもなかった。そのうえ、この巨大うなぎの皮は、なめし皮にでもできそうな位しっかりしていて切るのが困難であったので、一時間くらい格闘のすえ、どうにか骨から身をはずすことができた。

 

次の問題は、生のうなぎから蒲焼を作った経験など誰にもなかった。そこで、素人の考えながら、まずうなぎの煮つけを作り、それをオブンで焼くことにした。巨大うなぎだけあって、噛み応えのある蒲焼となったが、久しぶりのうなぎの味に、大人も子供たちも異存はないようであった。