(2)大嵐

 

コロンバスからニューヨークのラガーデイア空港までの飛行時間は約75分である。水曜日の朝8時には飛行機に乗り込んだのだが、夜中の豪雨のあと朝になって雪がちらついていて、温度は零下であったせか機体のデアイスイングが必要であるとされ、結局二時間出発が遅れた。ようやく飛び立ち、ニューヨークに近くなったかと思われたとき機体がひどく揺れだした。そして機長のアナウスンスがあり、嵐のたNYの空港はみな閉鎖になったので、ペンシルバニア州のハリスバーグに引き返し着陸するという。

 

ハリスバーグ空港では空港ビルからかなり離れたこところに止まり、降りたい人は降りてもよいが、一度降りたらもう一度乗り込むことは許されないという。それでも3分の1くらいの乗客は降りてしまった。乗っていても何時間待たされるかわからないし、その日の内にニューヨークに着く保証もない。もし着かなければ、次の日のブルックリン見学の予約も、オペラもだめになる。もし降りたとしてレンタカーを借りてニューヨークまで行くと約4時間足らずの運転でホテルまで着く見込みであるが、問題はレンタカーが予約なしで借りられるかイチかバチかであった。それでも、機内にいても食事は食べられないし、とにかく降りようと昭子が主張するのに従った。

 

空港の係り人に案内されて、先に降りた他の人たちも一緒に空港ビルまで歩き、大急ぎでレンタカー屋の並んでいるところまで行った。同時に降りた人はみなレンタカー屋に来ると思ったが、そこまで来たのは4人ほどで他の人たちは不思議にもどこかへ消えてしまった。

 

たいていのレンタカー屋には店人がおらず、居ても予約がなければ車はないと断られた。しかし幸い、AVISレンタカーで、車の返却があったところなので、それを貸し出せるといって呉れたのでやれやれ。予約なしで片道だけのレンタカーというのは、そうでない場合に比べて3倍くらい値段が高かったが他の選択肢はなかった。

 

借りられたのはフォードのフォカスという車で、これまでに運転したことはなかった。時速70マイルを少し超えるとキーンというエンジンかトランスミッシオンの継続雑音が気になるが、時速69マイルくらいでクルーズコントロールにするとぴたりととまった。良く知らない車種でもあり違反速度で走る気はなかったので、その速度で文句はなかったのだが、ヨーロッパで時速90マイルで走ってもあまり早さを感じさせなかったBMWと比べるとかなり性能が異なる。そういえばヨーロッパで時速90マイルで走っていた車は、ベンツ、BMWなどの高級車で、フォードのフォカスほどの安い車はもっと遅い速度で走っていたのを思い出す。

 

ブルックリンのホテルには夕刻の4時半ころ着いたが、すっかり暗くなっていた。コロンバスと比べると日が暮れる時間が一時間早い。ホテルの前に長く車を止めておくわけにいかないので、部屋に荷物をおくとすぐにラガーデイア空港まで車を返しに行かなければならない。距離からすれば十数キロなのに、高速道路が渋滞していて一時間以上かかった。それにラガーデイア空港の近辺は道路が混雑してる上に表示が分かりにくく、レンタカーを返却する場所と見つけるのに同じ道を何度も回って、やっと見つけた。

 

ホテルまで帰るのはバスと地下鉄にしたのだが、まずの困難はバスの切符代として一人分25セント玉を9個持っていないと乗せてくれない。それは知ってはいたのだが、ホテルで荷物を置いてきたとき、あわてていたのでコイン袋をトランクに入れたまま持ってくるのを忘れていた。バスの乗り口で数秒途方にくれていたら、運転手が何処まで乗るのか、と質問してきた。地下鉄の駅までだというと、金は入れなくてもよいから乗ってゆけという。これは親切である。しかし、ニューヨークのバスと地下鉄は一枚の切符で何処まででもゆける。だからバスの乗り口で払っても、地下鉄に乗り換えるときに払っても、彼らにとっては損はないことに気がついた。

 

やっとバスに乗ったが、黒人の運転手の発音が聞き取れなくて、いつ降りたらよいのかがさっぱりわからない。20分くらい行ったところで、高架線の下で停まったとき、運転手にあれが地下鉄かと聞いたらそうだという。こちらの言うことはみんな通じるのである。あわてて、バスを降りたら確かにそこが乗り換えの地下鉄の駅であった。

 

そこからブルックリンのホテルまでの地下鉄の乗り方はわかったのだが、この列車はマンハッタン経由の各駅停車でもあり1時間以上かかり、夜の8時ころやっとホテルにたどり着いた。

 

予定どうりなら昼前にはホテルに着いていて、午後は見物に使えると思っていたが、嵐のため時間は全部消えてしまった。

 

 

中村省一郎 12-8-2010

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