200.26

西 村 三千男 記

連載「余談・ドイツ化学史の旅」

 

第6回 気働き

 

日本語に「気働き」という一つの美しい表現〜美風がある。広辞苑を引くと「事のなり

ゆきに応じて即座に心の働くこと。気の利くこと。気転。」となっている。英語やドイツ

語には「気転」という語はあるがズバリ「気働き」は無いようだ。

 

第1話 ケルンのホテル(Azimut Hotel Koeln)にて

 ケルンのホテルはケルン中央駅の北方へ徒歩約10分(750m)と記載されている。

中村さんご夫妻とデュッセルドルフから到着したが、スーツケース2個など荷物が大きい

のでタクシーでホテルに着いた。部屋に入ると窓からドイツ鉄道DBの鉄路が見える。

S-bahn Hansaring 駅がホテルに隣接しているのに気付いた。翌8日はこのホテルから

隣街のボンへ往復することになる。そこでフロントの若い女性スタッフとのQ&A、

「隣の Hansaring 駅からボン行きの電車に乗れるか?」

「いいえ、ボン行きの電車は止まらない」

「しからば、ボンへ行くのはどうするか?」

「ボン行きの電車はケルン中央駅から出る」

「ケルン中央駅へはどの様に行くか?」

「歩いても近い。タクシーでもよい」

「ところで、隣の Hansaring 駅から S-bahn でケルン中央駅へ行けるか?」

「はい、全ての S-bahn 電車はケルン中央駅に停車する」

「それでは、Hansaring 駅から S-bahn でケルン中央駅へ行き、

そこで乗り換えてボンへ行ける?」

「それも可能である」

 

会話に間違いは含まれていないが、「気働き」も欠けている。

ホテルのフロントは「気働き」して、本来なら斯く言うべきであった。

「お客さん、ボンへ行くなら隣の Hansaring 駅から S-bahn でケルン中央駅へ行き、

 そこでDB線に乗り換えるとよい。駅はホテルに直結しているし、エスかレターも

あるから荷物があっても楽だ」と。

 

翌日は、ホテルから歩いて Hansaring 駅へ行き、プラットホームの自動券売機で、少し

苦労はしたがボンまで通しの乗車券を求めた。往路も、帰路も、翌々日のミュンヘンへ

の出発も同じコースを選んだ。デュッセルドルフからの到着時もその方が良かったのだ。

 

第2話 デュッセルドルフのライン遊覧船で

 好天気に恵まれて、中村さんご夫妻とライン遊覧船に乗った。当日夕刻に西村の来客

予定があったので短時間コースを選んだ。船が出ると飲み物のオーダーを取りに来た。

ご婦人二人はソフトドリンクを、中村さんが白ワインを注文した。西村が「Make it

two」とオーダーしたつもり。家内が「今の注文でうまく通ったかな?」とリマーク。

デリバリーされたのはソフトドリンク2ケと白ワイン3ケ。家内「それみなさい」。

給仕人に白ワインは2ケだ・・・と云ってはみたが、1+2の3ケ注文を受けたという

のでオーライとした。私のオーダーが曖昧だったのだろう。しかし、「気働き」のあっ

た一昔前の日本ならこんなことは先ず起こらなかった。それから今日でも「気働き」の

あるイタリアのカメリエレでは、多分こんなことは起こらないだろう。

 

第3話 ポッペルスドルフアレーのイタリアンカフェで

 サッカーボールとブブセラに彩られたケクレ像を堪能した後、ベートーベンハウス

を訪ねる前に街角のイタリア風カフェでランチをとった。メニューから各人がお好み

の一皿を見つけて注文した。「私はこのスパゲティを選ぶ・・・」と声に出した。向

こうのテーブルから武山夫人が「私もそれにしよう」と声を出された。やがて、西村

にはデリバリーされて食べ始めたが、武山夫人には待てど暮らせど来なかった。注文

が通っていなかったのだ。武山夫人は西村が「それを2つ」とオーダーすると思われ

た。西村は向こうのテーブルで注文すると勝手に想像した。ここは、西村が「こちら

で2つオーダーしようか、それともそちらでオーダーしますか?」と確認すべきであ

った。武山夫人は「他のオーダーのお料理のボリュームが多すぎたので、あの注文が

通っていなくてちょうど良かった」と慰められましたが、ドイツ人の「気働き」不足

を貶してばかりはいられない。

 

                              (以下次回)