5.バーボン工場見学-1軒目

 

最初のバーボン工場見学はWoodford Reserveという銘柄のバーボンを造っているLabrot and Graham Distillery であった。ベルサイユ町の近くにあり、県道ならぬ郡道ともいえる道路から舗装のない道路に入り、いくつもの馬の放牧場の入口を通りすぎてから、谷をすこし降りたところにあった。

 

見学者は訪問者センターという建物にはいり、一人5ドルの見学券を払う。かなり多くの見学者が来るものとみえ、見学案内人が5~6人はいたようだ。センターは大きな広間になっていて、付属した建物には売店と訪問者が昼食を注文できる食堂までついている。ホールにはバーボンの歴史や、このバーボン製造所の歴史を示す展示物がたくさんあって、時間をむだなくすごせるようになっている。

 

30分に一度くらいの間隔で約30人のグループがバスにのせられて見学に出発する。見学の内容は(1)原料の割合、仕込みの説明、発酵槽と発酵の現場、(2)蒸留と樽詰め、(3)4ないし10年熟成させるための樽の倉庫。これらをみることがこの旅行の目的であるが、来た価値は十分にあった。

 

バーボン規定によればトーモロコシの割合は51%以上でなければならないが、この会社ではトーモロコシの割合を75%にしている。そのほかはライ麦が10%、大麦は15%。大麦は発芽させてモルトにする。トーモロコシとライ麦は臼で粉にしてから、水を加え、加熱して粥状にする。そこへモルトとイーストを加えて、発酵槽で約7日かけて発酵させる。発酵が終了した段階でアルコール分は6~8%。この発酵槽はステンレス製で高さ3階くらい、直径も高さとほぼ同じの巨大な桶である。

 

発酵中の液体はmashとよばれ、発酵が終わったアルコール液はビールと呼ばれる。ビールは隣接の建物にある蒸留器にポンプで移され、蒸留される。ここの会社では蒸留を3度行っている。(他の蒸留所では2度)。各段階でどのような味なのか興味があったが、味見をさせてもらうことは出来なかった。蒸留器の設計について質問をしたが、案内人からは答えは得られなかった。それももっともなことで、蒸留器はスコットランドの蒸留器会社からの輸入しているである。

 

その上、案内人たちは蒸留の化学的物理的な基礎知識を持っていなかった。蒸留はアルコールをビールから分離すること、アルコール度を高めることの他に、ウィスキーの味の成分である微量な物質がアルコールとともに蒸留されてくるのをコントロールしなければならない。これらの成分はフーゼル油ともよばれているが非常に複雑でありかなり未知の分野でもある(注)。焼酎に関する知識からは、蒸留は単一蒸留を一回(乙類焼酎)か、連続蒸留(甲類焼酎、分留塔をつけてほぼ純粋のアルコールにしてしまう)のいずれかであると思っていたが、3回単一蒸留するというのには驚かされた。もっとも乙類焼酎でも複数回蒸留しているのかも知れない。

 

バーボンでは熟成を樽に入れて行うが、バーボン特有のやり方を用いる。樽の材質は白樫で、内側を火で燃やし厚み5mmくらいを炭にしてしまう。樽に入れるときのアルコール濃度は60%前後。樽は貯蔵庫に入れて、最低は6年、最高はここの会社では10年としている。樽は一度しか使わず、使用済みの樽はスコッチウイスキー会社その他に売却する。

 

貯蔵庫は5階建ての大きな倉庫で、各階に10段の棚がある。年月の少ない樽と多い樽は均等に混ぜて保存される。その理由は、もし年数ごとに分けて貯蔵して、一定の年数の樽だけが出荷により取り出されると、その部分が軽くなり、建物が傾くというのである。それでも建物の傾きを、錘をつけた糸を何箇所にもたらして、神経質にモニターしている。

 

貯蔵庫に入るや、プーンとウイスキーのよい香りがしてくる。このことは、樽には漏れがあることと関係している。どの樽にもかならず漏れがあって、10年貯蔵すると半分消失し、この消失を天使の分け前という。そして、アルコール度は年数とともに高くなる。その理由は、水のほうがアルコールより分子が小さくもれやすいせいである。拡散係数が大きいということか。

 

このことからわかるように、熟成年数の高いウイスキー(ブランデーも)ほど値段が高くなるのは、貯蔵代が高くなるだけでなく、天使の分け前が増えるため、量が減ってしまうためなのだ。コニャックで、ナポレオンまでは手が届くとしても、ルイとなると、ルイ何世かにより一本1000ドルから10000ドルで買う気にならない。しかし値段が高くなる理由はこれで理解できた。

 

バーボン蒸留所でのタバコと火の気は厳禁である。ここではないが、ケンタッキイーのバーボン貯蔵庫で過去に2度火事があった。火事になると、樽の濃度の高いアルコールが大量に噴出して燃えるので、貯蔵庫全体が燃えきるまでは遠巻きにして待つより手がない。

 

こんな話を聞きながら、1時間半は過ぎてしまった。見学が終わると、バーボンの味見である。グラスに大盛りしてくれた上等のバーボンはすばらしい味ではあったが飲みきれなかった。売店でいくつか買い物を済ませた後夕刻までは少し時間があったが、もう一箇所のバーボン会社に行くには時間が遅すぎたので、この日のホテルに向かうことにした。

 

(注)鹿児島大学焼酎学科ではフーゼル油の成分をクロマトグラフィーで分析していた。

 

11-5-2010

中村省一郎

 

 

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