ヘルムホルツ

 

ヘルムホルツ(Hermann von Helmholtz)はボン大学の著名教授のリストの中に、ケクレ、クラウシウスとともに含まれている。

 

彼は1821年ポツダムで生まれた。父親はナポレオンが攻めてきたときプルシャ軍に従軍して戦ったが、その後は高校の教師であった。生活は苦しく、ヘルムホルツが大学を選ぶとき奨学金のあるところしか選択出来なかった。そこで、卒業後10年間従軍医となる契約で、1838年にベルリンのRoyal Friedrich-Wilhelm Institute of Medicine and Surgeryへ入学した。在学中、ベルリン大学の化学と病理学の聴講を許された。

 

1843に卒業し、軍医の任務についたが、自由な時間のすべてを研究に用いた。この時代にエネルギーの保存則を示した。つまり運動エネルギーが失われたように見えても、熱エネルギー、静電ポテンシアルエネルギー、その他の形のエネルギーに変化していて、総計は変化していないことを示し、このことは筋肉の収縮、ガスの膨張、その他さまざまな現象で生じる事を論じた。このエネルギー保存則の発見は非常に重要な発見であることをみとめられ、軍医としての10年の任務の終了をまたないで、1849年に軍から解放されることのなり、研究者として大学での生活が始まった。ケーニッヒスバーグで教えた後, ボン大学の教授となり, さらにハイデルグ大学をへて, ベルリン大学の移りベルリン大学で物理科の主任を務めながら23年をすごした。

 

ヘルムホルツの功績は数え切れぬほどおおく、医学、数学、物理にまたがっている。よく知られているのは、光と音波にかんする研究であるが、これらは視覚聴覚の病理学の研究を物理を基礎に行ったからである。彼の開発した眼底を見る装置ophthalmoscopeはかれを一躍世界的に有名にした。ヘルムホルツ式は定常波動の式で、物理数学で必ず出てくる編微分方程式の固有値問題で、ラプラス式、ポアソン式とともによく知られている。

 

1856年に医学光学ハンドブック、1858年には完全流体に関する論文を発表した。後者の論文ではヘルムホルツ分解といわれる理論、またボルテックスの基本的な性質を論じた(ボルテックス法の出発点)。ヘルムホルツ分解というのは非常に独特の理論で、速度分布(ベクトル空間)を直進運動と回転運動の2個の成分に分離できるという理論である。この理論をもちいると、例えばナビアストークス式が、直進運動と回転運動の二部分に分解できる。(この理論を用いると電子計算機でナビアストークス式を解くときに非常に楽になることがある。)

 

ケルビン-ヘルムホルツ不安定現象というのは、せん断流(速度に異なる流れが接触してこすりあうと出来る速度勾配のおおきい流れ)内で流れが不安定になり、結果として渦ができる現象である(注)。ここに出てくるケルビンは絶対温度の概念を始めて提唱し、また絶対温度の単位にもなっているケルビンである。ケルビン-ヘルムホルツ不安定現象の研究はヘルムホルツの仕事なのになぜケルビンの名が始めに出てくるのかは(著者には)不明である。しかし、ヘルムホルツはスコットランドを訪問してケルビンと親しくなったことは確かで、その際に情報や意見の交換または協力があったのであろう。

 

ヘルムホルツと化学の接点はというと、熱力学であろう。エネルギー保存の原理は熱力学第一法則にかんする貢献であるが、そのときはエントロピーという言葉はできていなかった(エントロピーは1850年にクラシウスによって定義された)。しかしすでに、世界はエネルギー的に見ると死に向かっているという(エントロピーが増大に向かっているというに等しい)ことを表明した。後にヘルムホルツ自由エネルギーを定義したが、エントロピーsをクラウシウスが定義した後である。

 

1894年死去。

 

 

 

ケルビン-ヘルムホルツ不安定現象は流体力学の専門家以外では知られていないかも知れないが、知っておくと、我々の身近で観察の経験することはすくなくない。たとえば、ブンゼンバーナーで炎が定期てきにゆれたり、乱流炎になるとき起こっている。流れの不安定性が、酸素をガスに送り込む働きをしている。つまり化学反応の速度を速める役をする。

 

パイプから水量の多い排水溝あるいはプールや川に水が流れ出しているところでよく見かける。このとき起こる複数の渦は同期して拡大収縮回転を行うのですぐに分かる。

 

いわし雲はケルビン-ヘルムホルツ不安定現象によっておこる。雲が周期的な模様を造っていたら、上空の空気の流れは、方向、温度、湿度が地上とは異なっていて、その境にケルビン-ヘルムホルツ不安定現象が起こっていると考えてよい。不安定な境界によって、下の空気は上の空気と混ざり、温度の低いほうの空気の中で温度の高いほうの空気の蒸気の凝縮がおこる。この凝縮が周期的な模様を造る。

 

飛行機の羽の前方でもよく起こり、騒音の原因となる。竜巻の周辺でも起こることがある。