2010.1.20

西 村 三千男

 

「奇跡のりんご」を巡る話題〜その4

 

無肥料ということ 

 

この連載の「〜その1」の講演会で、Q&Aの際に司会の立教大学・濁川教授が

「木村さんの無農薬、無肥料栽培は、今日の日本で深刻な問題になっている子育て

にも通ずるのでは・・」と水を向けた。木村秋則氏は、我が意を得たり・・とこの

誘導に乗って「植物は、肥料を与えないと根が丈夫に育つ。子育ても同じだろう。

都会の子供たちは、正解のある問題の解き方ばかり訓練させられている。自然を観

察しない。考えることもしない。受験塾は如何なものか?」と応じた。

 

無農薬の思想は分かりやすい。そもそも、病虫害に有効な農薬は本来的に生物に

対する毒物である。農薬は人畜に対する毒物として、犯罪に使われることもある。

弱毒化しても人畜に完全無害は難しいだろう。だからこそ、人々は野菜や果物に残

留する農薬について神経質になる。前々回述べた木村秋則氏は、津軽のリンゴ栽培

が「リンゴを農薬からつくる」と云えるほど、農薬漬けとなっている実情に危機感

を抱いて、無農薬栽培にチャレンジした経緯がある。

 

もう一方の無肥料の思想は難しいと思う。無農薬の思想のように自明ではない。

ここで肥料の起源を論ずるのではないが、人々は、大昔から農作物に肥料を施すと

収穫が増すことを知っていた。腐葉土、堆肥、厩肥、糞尿、油かす、魚粉等々から

始まり、やがて化学肥料、配合肥料などが発明されてきた。家庭菜園でも、ベラン

ダの園芸でも肥料はごく安直に使われている。施肥によって作物を増産する反面、

肥料で促成栽培した野菜や果物は、姿、形は見事でも、その味や品質に欠点が出る

ことを知るようになった。これの対策が有機栽培であった。化学肥料を使わずに、

堆肥などの有機肥料だけを使うという建前である。「〜その3」の金子美登氏は、

この有機栽培である。無(化学)肥料栽培とも云っている。ミミズが棲息するよう

なフカフカの土作りを目指している。

 

これに対して、木村氏は山に自生するドングリの木の根本の土を究極の目標とし

ている。堆肥も使わない。下草も刈らない流儀である。必要な窒素分は野生の豆科

雑草(カラスのエンドウ)の根粒菌が補給してくれる。下草の根とドングリの根と

がその窒素分を競争で奪い合うことで、ドングリの根が、より丈夫に、より逞しく

なっている。さらに下草の繁みが、ドングリの木の根元の温度調節〜湿度調節に有

効に働いていることも観察される。

 

施肥して窒素分が過剰になれば、根は貧弱になる。木村氏の自然栽培への挑戦が

10年弱の長きに亘って無収穫が続いたのも、リンゴ畑の土壌に長年蓄積していた

肥料分の減衰に費やされた時間でもあった。

 

(その4 おわり)