麹菌と椎茸の類似性

 

最近椎茸栽培をやっている人と知り合い、さっそく教えてもらった。忙しい人が、知り合ったばかりの他人に時間のかかる教授をしてくれるというのも異例のことではあるが、彼も私のある知識と経験を知りたがったので、この交換は簡単に成立したのであった。

 

彼は椎茸の栽培の順序についてくわしい説明をしてくれたあと、ビニールに入ったカビの生えたような塊を持ち出して、これをもって帰り、湿度が高く、直射日光には当てないが暗くない所で、25C前後に保つようにせよ、と指示をくれた。

 

その塊とは、鋸くずに椎茸に菌を植え付け3ヶ月暗い場所で養成したものだという。早速家に持ち帰り、ビニールの中身を出し、大きい目の半透明のプラスチックの箱に入れて、言われたとうりの条件の場所に置いた。幸い我が家の住居には窓のある半地下室がある。湿度は、霧を吹きかけて蓋を閉めるので問題ない。3日もすると小さな椎茸が発生し、今日で9日目であるが、市販の生椎茸の半分くらいに成長し、椎茸栽培いとも簡単ともいえる。しかし、言われたとうりにやっているだけで原理が分かってないので、疑問だらけで思考発展が出来ないのはやりきれない。

 

そこで図書館やインターネットでキノコの栽培に関する資料をあつめ読み始めた。アメリカの公共の図書館というのは非常によく出来ていて、市内各所に多数ある上、インターネットで検索できて、一度の検索でどの図書館にどのような関連書籍があるかわかる。だから、こんなに便利にしてあるのにどうして勉強しないのかと言われてるようなものである、ともいえる。

 

ともかく、読書の結果驚くべきことが判明した。つまり、麹菌と椎茸(他のキノコも同じ)の生態は、時間と空間的スケール違いを無視すればあまりにも似ているのである。(そういえば、麹自体匂がキノコに非常に似ている。)麹は煮た穀物の麹菌を撒くと、菌糸が成長し穀物の表面を包む。3~4日もすると菌糸から球状の胞子嚢をつくり、胞子を放出する。人間が麹を使う理由は、菌糸の根が穀物に食い入り、そこで穀物から栄養分をとるときに分泌する酵素が澱粉を糖に分解し、またタンパク質をアミノ酸に分解する働きがあるためである。

 

さて椎茸つくりはもともと椎や樫の丸太に椎茸菌を植え付け放置しておいたものだが、最近は鋸くずを使う方法がさかんである。その順序は、鋸くずを固めて、椎茸菌を振りまき約3ヶ月放置した後、光と酸素と水の補給をすると椎茸が生え出す。では約3ヶ月の放置の間何が起こっているかというと、その間椎茸菌から発芽した菌糸が増殖して、鋸くずの中に根をおろし、鋸くずの粒の空間を菌糸が埋めていっているのである。そうして菌糸が十分に発達し胞子を作る条件が整えば、そこで椎茸キノコを発生させる。椎茸キノコが成長すると胞子を作り放出する。つまり椎茸キノコは麹の場合の胞子嚢に相当しているのである。ただ、麹の胞子嚢に比べるとべらぼうに大きく、成長にも時間がかかる。しかし、椎茸キノコの発生は最終段階の現象で、椎茸の植物としての生長の本質は菌糸網の発達にあるわけだ。菌糸の根は鋸くずの木質中のリグニンに食い入りそれを溶かして栄養とする。

 

こう知ってみると、私のもらってきた塊にカビが生えていたように見えたのは菌糸で、まさにカビの一種であったわけだ。それでは、椎茸を生やすためには丸太や鋸くずを固めたもの以外にはないのだろうか。実は、すでにフランスでは麦わらを使っている。トウモロコシの芯からでも椎茸はできるという。鋸くずの代わりにピートを用いたという記載は見当たらないが、可能なら鋸くずを探すよりはるかに簡単に手に入る。また、鋸くずを使う場合穀物を混ぜておくと、椎茸が大きくなることが分かっている。丸太を使う場合、冬に切った丸太には椎茸が育ちやすいというが、その理由は木は冬には糖分が多いからである。しかしこのことは、鋸くずを使う場合、砂糖を混ぜておくとよいことを示唆している。

 

このように、キノコの生態の基礎がわかってくると、無数の可能性が思い浮かんでくる。あまり知られていないことなのだが、植物一般にビールが非常によい肥料となるという事実がある。これはアルコール自体が細胞を活性化し、またビールの中の糖分、ビタミン、ミネラルがみなプラスになるためである。弱った植物にはビールをかけると元気になるのはほんとうである。砂糖自体も植物に効くのだが、もっとよいのは黒砂糖ではないだろうか。これらの効果はキノコ栽培にも応用できる可能性が大きい。素人の無謀といわれそうであるが、こういうことならいろいろやって見たいのである。

 

中村省一郎 (9-1-2010)