ノーベル化学賞2010 を巡る武山高之さんとの往復メール

 

10月8日: 朝一番に掛かってきた電話がアイソマーズの武山さん。端的に言って、化学賞に辻先生[ 1] が入れなかった理由を解説して欲しいという趣旨だった。これに関して、私の短い感想を書き[ 2]、化学賞のPress Release PDFを添付して送った。 [添付書類を見て下さい]

 

[ 1]    元東レ基礎研究所主席研究員、東京工業大学名誉教授、日本学士院賞(2004) 鈴木 章(北大名誉教授) と共同受賞されている。

 [ 2]   医学・生理学賞に不妊治療の体外受精法 (in vitro fertilization) を確立したという、Robert G. Edwards (Univ. Cambridge) が選ばれた。メディアの予測はまるで見当違い。当時は倫理問題などで不評を買っていたが、32年も経過しての選出とは。

            物理学賞について、飯島澄男教授(名城大)は、彼が発見したナノチューブが、先発のフラ-レンに付随したものと見做され、今また後発のグラフェンの仲間として、今度も振られてしまったと日経紙上でボヤいていた。 さもありなん。

            化学賞は、“有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング反応”の業績と発表された。Heck 教授については、今年になってC&ENでその業績のキャンペーンを繰り広げていたのが、ノーベル賞狙いであろうとは推測していた。それに続くのは、均一系触媒反応を重視するのなら、玉尾先生(京大:熊田研)、  辻先生(東工大)かと思っていた[ 3]。しかし、そのHeck教授から一足飛びに、医薬関係とIT材料方面への応用に選考委員会の眼が向いてしまったというところか。これもノーベル賞の一つの特徴ではある。この発表をした委員3人の右端にJan-E. Bäckvall 教授(面識あり)が座っていた。化学賞だけ3            部に分かれて発表されたPress Releaseを見て、Bäckvall 教授がScientific Background on the Nobel    Prize in Chemistry 2010 (12 pp) を執筆していることが分かった。

[ 3]    このどちらも、山本が所属していた当時の同僚。

 

山經さん:

資料読みました。辻さん、玉尾さん、飯島さん惜しかったですね。ご本人たちはさぞかしがっかりしたことでしょう。ノーベル賞選考の問題点がいろいろありそうですが、学者でない私には分かりません。

ただ言えることは、私は企業に勤めた技術者ですが、最近ノーベル賞が身近に感じられるようになったことです。学者の山經さんや大澤映二さんはその渦中に入っているのですね。その周辺にいる私たちの技術レベルも世界的に見て、結構良いところになっているのかなあ、と感じています。      武山高之

 

武山高之 さん:

早々と、結構長いPress Releaseを読まれたようで、関心の深さが感じられました。

Prof. Baeckvall 12 ppの解説は、引用文献から見ても、選考過程でこれらを精査したことを明らかにしているものでしょう。彼は選考委員の一人で、この分野に精通している学者の一人ですから。 結局、応用への重視が明確となりましたが、研究の新規性の視点をやや犠牲にしている感を拭えません。一分野で3人までという内規を再考するべきところに来ているように私は感じます。とくに、深化と変化の激しい化学分野では、そうしないと不公平な選考という弱点を持ってしまうことを恐れます。

これは、Knowles, Sharpless, 野依の化学賞 2001で、Prof. Kagan を漏らしたことが、スキャンダル紛いの騒ぎとなったことを思い出させるほど、深刻な問題だと思います。                         山本經二

 

 

添付書類

(1)     The Nobel Prize inChemistry 2010:  “for palladium-catalyzed cross couplings in organic synthesis”.

(2)     Scientific Background on the Nobel Prize in Chemistry 2010: Palladium-Catalyzed Cross Couplings in Organic Synthesis

(3)     The Nobel Prize inChemistry 2010:  A Powerful Tool for Chemists