英国旅行記

(1)バススパ

 

今回の旅行の発端は、昨年ケンタッキイー州のバーボン醸造所を見学したとき非常に楽しく学んだことも多いので、ぜひスコッチウイスキーの醸造所も行かねばならないと思ったことであった。スコッチ醸造所の大半はスコットランドの北端にあり北極圏にも近い。ロンドンからは列車で8時間位かかるから、丸3日スコッチウイスキーの醸造所訪問に使うとして、交通時間をいれて計6日くらいないと十分とはいえない。だから今回は他のところへは行かずそれだけで往復しようと考えていた。

 

ところがこの計画は昭子が一緒に行くと言い出してから大きく狂ってしまった。つまり、スコッチ醸造所見学だけではつまらないので、ロンドンもエジンバラもカンブリア湖水地方もコッツワルドにも行くことになってしまった。だからスコッチ醸造所に一日は(名目上)入れるが、それはエジンバラから日帰りで行けるところに制限されてしう。その代わり、スコッチ醸造所以外は昭子が綿密に調べあげて旅行の計画を立てた。

 

デトロイトからロンドン行きの飛行機に夕刻乗り、ロンドンには朝着いたのだが、飛行時間は7時間で時差が6時間あるから、体にとっては朝の2時ころ到着したことになる。ロンドンでは2時間しか乗り継ぎの時間がとってなかった。ところが入国手続に長蛇の列で一時間なくなり、乗り換えの駅までは地下鉄に乗らなければならない。やっとの思いでパデイングトン駅まで来たのだが、何番線から列車が出るのか駅員に聞いても、掲示版を見ろというだけ。その掲示板は刻々変わるのだが、見たい情報か出る前にはかなりの時間を待たされた。だからホームがどれか分って駆けつけたときには発車寸前であった。

 

この日の行き先は温泉地のバススパ、ローマ人がやってきて温泉保養地を作った。今もその遺跡は名所のひとつである。そこまでは列車で2時間、ちょうど昼ころついた。

 

バススパの駅は小さいが人気のある観光地で日本人の団体客もわんさと来ていたが、私にとっては大きな課題があった。その日から3日間はレンタカーを乗らなければならなかったからである。

 

イギリスは日本と同じ左側通行、一度も経験がない。オートマチックはなかった。

マニュアルシフトの車の運転台は右側で、シフトは左手、どれも初めて。しかし、そこまでは道のどちら側を走って、交差点ではどう曲がるなどと、頭のなかで何度も練習していたので、まだよかった。実際に走り出してみて参ったのは道が狭く、すれ違いの車は自分の右側をすれすれに通過することであった。

 

レンタカー屋から乗り出してすぐに、表通りからそれたところで少し練習しようと思い、交差点を曲がったのだが、交通の少なく練習の出来るような道はなかった。この中世以来の町はあらゆるところ狭い道の両側に駐車がしてあり、そこを多くの車が行き交う。このような次第で、町のかの見物どころではなかった。アメリカの町なら右へ4回曲がれば元の場所に戻るが、そんな常識は通用しなかった。どこを走っているのかわけも分らずぐるぐる走っているあいだに、標識のある主要道路に出た。そこで、郊外にあるその日の宿に向かうことにした。

 

宿はバススパの北東30Kmくらいのところにある。アメリカでなら何でもない距離だが、スピードが出てくるとそれに伴う困難があった。マニュアルシフトなので変速レバーの切り替えが何度もある。右側でぎりぎりに対向車とすれ違うのが怖いから、シフトに気を取れれるときは知らずと中央線から離れがちになる。

そうすると左に座っている昭子が悲鳴を上げる。左車輪が道からはみ出すか、歩道のあるところでは乗り上げてしまうからである。

 

知らない道であったが、一時間足らずで宿についた。巨大な敷地の中にありマナーハウスと呼ばれる瀟洒なホテルであった。

 

その日は、それ以上は出回らないで、庭を散歩し、周りの村の道を散歩してすごした。イギリスは庭園を非常に大切にする。マナーハウスの中の庭園も、村の家々の小さな庭の植物も実に見事に花を咲かせている。イギリスは花を植えるのに非常に適しているようだ。雨が多く夏は猛暑がない、年中気温がおだやか。

 

マナーハウスの庭

 

村の家

 

マナーハウスの夕食は見事であった。メニューから注文したときは比較的簡素で食べ過ぎないようにと気を配ったつもりだったが、いざ出てきてみると注文した皿の前後に小さな容器にいれた口直しとも言える料理がいくつも運ばれてくる。どれも綺麗な盛り付けとよい味であった。格式を重んじるレストランらしく料理の運び方にも特徴があった。料理は台所から出てきた前掛けをつけた女性が盆においてもっている。それをウェイターが先導して、客の前に来てからウェイターが皿を客の前に運ぶ。しかし、興味がもたれたのは盆を運ぶ女性が立っている位置である。台所の出口から離れてあまり前に出すぎていると、台所の出口近くまで戻らせ、そこからウェイターの先導で客のテーブルに向かって歩きなおすのであった。私の席からはそんな儀式のような皿の運び方がよく見えた。

 

食事が終わってからマネージャーがやってきて、「食事はいかがでしたか」と聞くから、「非常においしく料理の仕方は巧妙といえます。フランス式ですか」と問い直すと、「いいえ、イギリス式を心得ております」という返事であった。

 

 

中村省一郎 9-11-2011