(2)チッピングカムデン

 

2日目は一晩泊まりでチッピングカムデン往復をすることであった。テーマとしてはイギリスの田園風景を楽しみ、田舎の町で宿に泊まるということである。チッピングカムデンという町は、コッツワルド地方にありオックスフォードからもさほど遠くない。オックスフォードの近くでシェクスピアの住んでいた家のあるストラットフォードアポンエイボンという町も遠くないが、行った事がある。マナーハウスからチッピングカムデンまでは車で2時間。2日目の運転はもう問題がなかった。

 

小さな町だが、日中は観光客でごったがえしていた。このあたりは羊毛の産地で、この町は中世以来羊毛の取引場として栄えた。見るべきところはさほど多くはないが、店と古い町並みが見所といえるだろう。一日こんなところでのんびり過ごすのも悪くない。夕刻ともなると人はほとんど消え去り、ひっそりとなった。泊まった宿は何世紀もまえに立てられた居酒屋つきのホテルで、部屋の天井が低かった。昔の人の背が低かったことは、シェクスピアの住んでいた家に入ったときにも感じた。

 

夕食は向かいのレストランでフィッシュアンドチップスを食べたが、魚は新鮮な鱈であったので問題はなかったが、なぜか衣か油に変な匂いがあり、この日以来英国特有の食べ物のまずさが気になりだした。

 

次の朝にはバススパに戻り、列車に乗らなければならない。その時間は朝の8時で、2時間のなれない運転があるから、朝は3時起である。しかし2時には目がさめた。というのは変な音がどこからか聞こえてくるのである。ウー、ゴーというような非常に低い音で、鳴り出すと4~5秒して瀬戸物の鈴のチンチンチンが始まり、1オクターブ低く間隔のながいテーンテーンという音が重なる。しばらく止むと、またよく似たパターンで鳴り出す。2階から聞こえてくるようにも思えた。何のために誰がこんな音を真夜中に鳴らしているのか分らなない。世の中には慢性不眠症の人が妙な音を聞きながら自分を眠りに誘うことがあるのを思いだした。ヘンゼルとグレーテルが森の小屋で夜中に聞いた包丁を研ぐ音の話も思い出したのだが、それとも違う。

 

3時に目覚ましがなり荷物をつめて外へ出たら、その理由がわかった。犯人は風と煙突とドアの飾りであった。かなり風がつよく、その強さとともに石つくりで出口が開いた煙突が笛になって可聴周波数すれすれの低い音を出し強度が増していた。風が弱まるとその音は消えたが、またすぐに始まる。チンチンチンとテーンテーンはギターの線が張った飾りがどこかの家のドアについていて、風とともに槌が線をたたき、そのような音を出していた。思わぬチッピングカムデンでの経験であった。