(5)ウイスキー醸造所見学のバス旅行

 

エジンバラで一夜開けた次の日は、バスでウイスキー醸造所の見学である。エジンバラの北方、バスで2時間の距離にあって、Glendich というブランドを作っている。

 

このバス旅行では運転手が運転しながらマイクロフォンを用いてさまざまな話をしてくれた。英語に癖がなく、博識で話が面白くてわかりやすく、非常によかった。スコットランドの歴史、スコットランド王室のさまざまなエピソード、イギリスとの戦争、エジンバラに関する歴史的背景、など。

 

そのような話の中に、エジンバラ大学医学部の解剖教室にまつわる連続殺人事件 (1827-1828) の怪談が含まれていた。19世紀初頭からエジンバラ大学医学部は欧州で指折り数える優秀な学部であった。そこの解剖学教授のところへは多くの留学生が集まり、また劇場を用いて一般公開の解剖も行った。ところが解剖に必要な死体の数が足りないことに目をつけた業者(BurkeHareの二人組み) がいて、墓に入れられたばかりの新しい死体を掘り起こして、大学へ持ち行き金をもうけた。歴史的背景としては、解剖に使える死体は、死刑囚であった。しかし1800年代初頭に法律が整備され、死刑になる囚人の数が極端にへり、医学部では死体不足に悩んでいたのであった。死体は新しいほど高く売れるため、その業者は殺人を始め十何人かの死体を大学に売ったのである。この事件は警察に解明され、1932年には死体を買うほうにもライセンスを義務付ける法律が出来、このような殺人は姿を消したという。

 

こんなうっとしい話は聞かなくてもよかったのだが、その当時よく似たことが、ロンドンでもアメリカでも起こっていたことを学ぶきっかけとなった。

 

このバスの運転手の話があまりにも整然としていて、科学技術にも明るく奥も深いので、バスが止まって休憩に入ったときに、「あなたの話はとてもおもしろい、博識で深みがあります。どんな教育をうけましたか」と聞いてみた。答えはなんと、数年前まで医者をやっていたが退職してから会社に雇われて運転手をやっているという。日本で、医者が退職後観光バスの運転手をやることがあるだろうか。この運転手の柔軟な考え方に感心した。

 

さてウイスキー醸造所には大勢の見学客が来るらしく、大きなレストランがあり、売店があった。しかし案内は若造が通りいっぺんの話しをするだけで、見せてくれないところも多く、質問しても、あまりはっきりした返事は返ってこなかった。ケンタッキイバーボンのときのように、少人数の訪問者のために専門家が出てきて案内してくれたのとは違って面白くなかった。他の見学者と比べて私は知りすぎてもいたのである。シングルモルトウイスキーで気に入ったのがあれば買おうとも思っていたが、ブレンドと比べて、味にあまり違いも感じられなかったのでやめた。