(7)旅の感想と後書き

 

今回の旅の初日はロンドンで起こった騒乱の確か次の日であった。ずいぶん心配してくださった友人もいたが、ロンドンでも地域が違うのか、全然影響は感じなかった。

 

それよりも、英国の有力新聞Independence紙に福島原発の長い記事があって、それによると、「政府と東電では地震自体によるプラントの損傷はなかったと主張してきたが、所員からの直接の聞き込みに寄れば、地震直後からプラントのパイプの亀裂があり、蒸気の漏れ出しがあった」ことが詳しく報道されていた。LOCAつまりLoss of Coolant Accidentが津波による停電前にすでに始まっていたというのである。このことがどのくらい日本では報道されていたのであろうか。

 

旅行に行く前から、UK特有の食べ物の名前をいくつか知っていて、チャンスがあれば味わってみたいとも思っていた。その一つはコーニッシュパスティーである。これはコーンウォール地方(イギリス南西部、Lands Endもこの地方)のパイの意味で、その由来は、2世紀ほどまえにこの地方に多くいた錫鉱山夫たちが好んで食べたパイである。二つ折りにしたパイ皮の中に肉と野菜が入っていて、一個で一食になる。パイの縫い目は特に分厚く作ってあるのは、錫鉱石には毒性があるため、縫い目のところを大きくして持ちやすくし、そこは食べないで捨てるため。

 

バススパで列車を降りたら丁度昼ころだったので、駅前の小さなレストランに入ってコーニッシュパスティーがあるかと聞いたら、意外とすぐに持ってきた。これは旨かったが、後で考えると店を経営していたのがインド人かアラブ人であることに関係していたようだ。

 

この食べ物は旅行中どこでも売っていて、手軽に買えるため数度買ってみたが、どれもひどくまずくて失望した。それに、イギリス風のレストランの食べ物も、どうしてそんなにまずいのだろうか。食べ物というのは、基本的には材料に火を通し、軽く塩味をつければもっと旨いのである。しかしこの国ではわざわざ非常にまずくする料理法というのがあるとしか思えない。ロンドン目物の一つにテームズ川の鰻の料理というのも、テームズ川の淀んだ水と、まずいイギリス料理の味を思うと、もう探す気にもならなかった。

 

そんな経験から、ロンドンでヨー寿司という看板の店があったので入ってしまった。それも、アメリカのテレビでリックスティーブが主演する旅行番組でこの店の紹介をしていて、世界一の回転ベルトで圧倒的な人気、などというのにだまされたのでもある。実際にはイギリス人の握った寿司のほか、トンカツや枝豆など日本風のものが回ってきたが、どれもひどい味で食べられたものではなかった。出るときチップを要請されたが、まずいからチップは払わないと小声で言い残してきた。

 

もう一つワガママラーメンという店がロンドンタワーのすぐそばにあって、入ってみた。ここは日本人の献立にしたがってやっているのが明らかで、焼き豚入りのラーメン(チャーシュー麺?)を注文したが、まともな味であった。ただ焼豚の量が麺と同じくらいあり(日本ならせいぜい3枚くらいなのに、ここでは10枚以上)とても食べ切れなかった。実はエジンバラの中華飯店でも同様の経験をした。肉が多いのはお国柄ということか。

 

ただし、イギリスの菓子とケーキ類はさすが「お茶の時間」の好きな国柄だけあってか、失望しなかった。

 

製造業はアメリカのよりももっと前にすたれてしまった。だから産業革命で栄えた国であったが、いまは工場の廃墟だらけ。その国の経済はどうなっているのか。その答えの一つは、平地が広く人口は日本の半分以下であるところにあるようだ。その土地を利用しての農業と畜産が盛んである。羊毛の生産は荒地でも草さえ生えれば出来るし、犬が羊の管理をするから人手が少なくてすむ。また大きな利点は、中国の進出がない。工業では土地の伝統を生かした手工業が盛んであるという。これも開発国が真似を出来ない分野である。(歴史的には、そういう土地のない人たちはアメリカ、カナダ、オーストラリアなどに移民して行ったのだろう。)

 

今度の旅行で痛切に感じたのは米ドルの安さであった。たとえば列車の中でコーヒーを売りに来る。紙コップに白湯をいれインスタントコーヒーの小さな袋をくれて4ポンド、ドルに換算すれば7ドル。レストランで食事をすれば、どんな田舎の小さなレストランでも、たいていは2人で最低50ポンド、ドルに直すと約85ドル。すべてがこのような具合だ。

 

旅行から帰るとアメリカの廃退振りにも痛感せざるをえなかった。デトロイトで入国手続きがあるが、千人以上の列に並ばなければならない。以前はこんなことはなかった。理由は連邦政府の予算削減と関係があるらしく、明らかに窓口の数が以前と比べると半分くらいしかない。おまけにテロ対策のため一人当たりの時間が長くなっている。結局1時間以上待たされて、乗り継ぎの便に間に合わなかった。

 

旅は冒険という。こんな文明国の旅でも一日に一つ位は、間違えば大混乱に陥りそうな場面があった。とは言え、いつも住み慣れているところから遠く離れて旅をすると、新しい土地を知り、異なった観点から考える機会を得たことが良かった。

 

(最後に写真動画ビデオが続く予定)