宇田川榕菴『舎密開宗』を読む(2)液体と溶液の物理化学

 

武山高之(2011.8.21記)

 

今回は、『舎密開宗』巻1第1章~第27章について、気の付いた点を紹介する。

この巻は、溶質と溶媒の親和性と熱に関する記載がある。

 

1.第1章~第10章 「親和力について」

 

溶質と溶媒間の親和力、溶質の溶解性、その温度依存性、第3成分添加による溶解の促進などについて、定性的に述べている。

第1章では「舎密親和」、第8章では「甲乙 丙に頼テ親和ス」、第10章では「親和 物性を変ズ」というように、物質間の相互作用に「親和」という言葉を使っている。我々が学んだ「親和性」という言葉の原点はここにありそうである。

 

2.第11章~27章 熱的考察

 

宇田川榕菴は熱に対して、「温素」という言葉を使っているが、熱を何か物質のような物としての扱いである。

燃焼に関しては、「可燃物と酸素の反応」であるとして、フロギストン(燃素)説を排したラボアジェも1789年に刊行した『化学要論』では、熱を「熱素」として、重さのない元素の一つとして扱っている。

熱の本質が運動の一形態であるという考えが出てきたのは、19世紀に入ってからであり、『舎密開宗』の当時は、熱は捉え難い概念であったらしい。

 以下、注目される章を紹介する。

 

14章 「熱膨張」

この章では、「温素 物容ヲ廓ス」という言葉で「熱膨張」を説明している。

流体の例として験温計(温度計)を、気体の例として動物の皮袋に入れた空気を、個体の例として鉄棒の伸縮を示している。

 

16章および第17章 「伝熱」

ここでは、「温素は平均ヲ好ム」、「温素の導達」という言葉で「伝熱」問題を取り上げている。

 

18章および第19章 「沸点」

水の沸点を取り上げ、その大気圧依存性として、山上での沸点の標高依存性について、側定例を挙げている。温度表示は華氏を使用している。

平地で212F(100℃)で沸騰する水は、20003000メートル級の山上で、204F(95C)、194F(90C)と低下する現在ではよく知られた測定例を示している。

 

19章~第27章 「相変化」

物質の3態は「凝流氣三體」(19章)と表現し、相変化における潜熱を、「冰(氷)中の潜熱素」(氷の潜熱)(21章)、「凝體 融ルニ方(アタリ)テ寒ヲ生ズ」(融解熱)(23章)、

「流體 凝ルニ方テ熱ヲ生ズ」(凝固熱)(24章)と説明している。

潜熱素という言葉ではあるが、「潜熱」を扱っている点が注目される。

 

(第2回 おわり)