『舎密開宗』を読む(4)文中に現れる元素と化学用語

 

武山高之(2011.9.1記)

 

『舎密開宗』の内編巻3~巻15には、無機化学に関する記載がある。

ここでは、当時知られていた元素と宇田川榕菴が導入した化学用語の和文訳に注目したい現在我々が使っている日本語の化学用語が榕菴由来の物であることに気付き、先達の偉業に感謝したい。

 

1.『舎密開宗』本文に現れる元素と和文表示

 

『舎密開宗』に記載されている元素数は31種である。

 ラボアジェは1788年に「新しい元素観」を確立した時には、約30種の化学元素表を発表している。また、ヘンリーが原著を書いた18世紀末までに発見されている元素数は33種であり、『舎密開宗』の記載に一致する。

また、『舎密開宗』の序例(序文)には、『舎密開宗』執筆時点での元素数は50余りとの榕菴の記載がある。これは、1840年時点で発見されている元素数54種と一致する。

 

『舎密開宗』の本文に記載されている元素は次の通りである。

 

水素、ホウ素(蓬素)、炭素窒素酸素、フッ素(弗耳乙)、ナトリウム(曹達)、マグネシウム(苦土)、アルミニウム(礬土)、ケイ素(珪土)、硫黄塩素、カリウム(加里)、カルシウム(加爾基・カルキ)、マンガン(満俺)、鉄(銕)、コバルト(箇抜爾多)、亜鉛、ヒ素(砒素)、ストロンチウム(斯多侖知安土)、、アンチモン(安質没尼)、バリウム(重土)、白金(黄金)、水銀、ビスマス(蒼鉛)、計31

 

この中で、太字は現在でも使われている元素名か、または通じるものである。

 

2.化合物の表記

 

 元素名だけではない。榕菴は化合物名でも次のように、我々に馴染みの表現を使っている。

 

硫酸、亜硫酸、硫酸曹達、亜硫酸加理、塩酸、消酸(硝酸)、亜消酸、酒石酸加理、盬(塩)酸、酸化水素など

 

 また、現在はあまり使わないが、次の化合物名も榕菴由来のものであることが分かる。

 

苦土、礬土(アルミニウムまたは酸化アルミニウム)、加爾基(カルキ、オランダ語、カルシウムまたは次亜塩素酸カルシウム)

 

3.その他の化学用語

 

元素名や化合物名だけではない。次の化学用語も榕菴由来であることが伺える。

 

飽和、溶解、飽和、酸化、結晶、消極と積極(陰極と陽極)

(第4回 おわり)