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炉心熔融と格納容器破損の可能性

中村省一郎

 

枝野長官談話の中に「2号炉で圧力容器、格納容器が熔け、損傷している可能性がある」という発言があった。圧力容器破壊、さらに格納容器破壊は原子炉事故で最も恐れられていることで、本当であるとすれば大変なことである。それなのに、政府高官の一言だけで、どういう根拠からそれを言っているのか、また担当の技師たちの説明は何も聞かれないのはどういうことか判断に迷う。

 

この後の事故の成り行きと先の見通しは、日本人ばかりでなく世界中の人が関心を持っていることで、とくに事故の影響を直接うける可能性のある地域に住む人にとっては重大事である。また在日(東京近辺)の外国人は原発事故が始まるとともに日本から一次非難した人も多いが、3月29日現在、その90%までは日本に戻ってきていると推定できる。このような人たちも原子炉事故の現状には極度に敏感である。このような状況では、「圧力容器、格納容器が熔け、損傷している可能性がある」という発言をどのように受け止めればよいかを考えてみる必要がある。

 

2号炉でこのようなことが言われるのは、極度に高い放射能が2号炉の周りで検出されたことに関係があると考えられ、高い放射能の理由として圧力容器、格納容器が熔け、損傷していなければこのような高い放射能はありえないと言う意味であると推量される。圧力容器、格納容器が熔け、損傷しているという証拠は何もないわけで、現状ではそれを観察し確かめる方法は何もない。

 

一方2号炉のこれまでの経過を考えると、その可能性も否定できなくなる。2号炉では、3月13日の夜中に非常冷却水のポンプを動かしているエンジンのガソリンが切れていて、それに対応するまで約2時間非常時冷却水が止まり、ほぼ全部の燃料が露出した。その後、格納容器内で水素爆発があり、圧力抑制器(ドーナッツ型で半ばまで水が蓄えられている)が破損した。このときの報道では用語に混乱があり、破損したのは格納容器内が破損したのか圧力抑制器が破損したのかあいまいであったが、時間が経つとともに圧力抑制器の破損であったことが確かめられた。しかし、このときの爆発で格納容器(厚いコンクリート)に亀裂が入らなかったという保障はどこにもない。しかし、一般に水素爆発では格納容器の損傷は起こらないと考えられていて、3マイル事故でも水素爆発は起こったが格納容器の損傷はなかった。

 

問題は3月13日の夜中に大半の燃料棒が破損したことにある。このように大量の燃料棒(被服)が破壊されると、当然燃料棒の形は保てなくなり、炉心の下方で圧量容器の底に向かって酸化ウランペレットが落下するであろう。3マイル島事故でも同じことが起こっていたが、幸い圧力容器の底は破壊されなかった。しかし2号機で圧力容器の底は破壊されなかったという保障や証拠はなにもない。

 

もし大量の酸化ウランペレットが圧力容器の底にたまると、水の循環は悪くなるから核分裂生成物崩壊熱のため温度が上がり1000Cを越すことになるであろう。さらに温度が2200Cを超えると酸化ウランペレットが熔けて白熱の塊となる。じっさいに温度がどこまで上がったかは不明であるが、温度が1000C以上なら圧力容器の底を貫いて落下し、格納容器の底にたまるであろう。これをメルトダウンと呼ぶ。この部分にはコアキャッチャーと呼ばれる厚いコンクリートの床になっているはずだが、初期の時代に作られた2号炉での詳細は定かでない。圧力容器の底が溶解し高温の酸化ウランの固まりにどのくらい持ちこたえるかは予測できない。

 

2号炉でメルトダウンが絶対に起こっていない保障はないし、証拠もない。起こっていてもその規模は分からない。もし起こっていたとすれば、3月13日以後のかなり早い時期に起こっている可能性がある。その理由は、13日からの経過時間が増すほど崩壊熱の発生量が減少し、酸化ウランの温度が低くなるはずだからである。たとえば3月21日には発生量は3月11日に比べて20分の1に減少していて、日が経つほどメルトダウンが起こる可能性は減少する。

 

大規模なメルトダウンでは熔けた酸化ウランの塊は格納容器の底を貫き、土に到着する。その後どのくらい地下に突入するかは想像に任せるしかない。チェルノビルでは炉心は熔融が起こり、格納容器がないので白熱した熔融物が見えたということであるが、チャイナシンドロムの映画()で描かれたような沈下はなかった。

 

福島原発2号炉でどうななっているかは、まったくの想像でしか言いようがない。しかし、もし小規模でも格納容器の底に穴が開いていたらどうなるか。格納容器の底には大量の水がたまっており、大量の放射性物質を含んでいる。それが地中に流れ出し、地下水に混入することが真っ先に起こるであろう。もし仮に熔けた酸化ウランが地中に突入しても、格納容器の下で起こることであるから、それが空中に飛び散ることは考えられない。地下水の汚染の広がりにはかなり時間がかかることで、2号炉周辺で高濃度の放射能が発見され、2号炉の格納容器破損の可能性を言い出したのも、そのためかもしれない。

 

また格納容器の破損が起こって居ない可能性もある。というのは、今のところ3つの情報が欠けているためである。欠けている情報のひとつは、これまでの大量の水を炉心に注入してきたが、炉心と格納容器の体積は一定であるから、どこかにあふれた水を捨てていなければならない。その水はどこへ捨てたのか。原子炉建屋のすぐそばに捨てた可能性はないか。また使用済燃料プールの破損の可能性が伝えられているが、もし破損しているとすれば、その水はどこへ漏れたか。最後に、タービン建屋の地下室にたまった水は、地下水が入ったとは考えられない。したがって、格納容器の破損が起こっていたとしても、直接の関係はありえないと思う。むしろ、発表されては居ないが、格納容器であふれた水はタービン下の凝縮器にためていた可能性はないか。そうすれば、その水を送るパイプから漏れた水が地下室にたまった可能性がある。

 

これらの点につき、東電および政府から発表される報道はあまりにも断片的表面的で、その背後の状況が判断できない。何億という人の命と安全がかかっている複数事故であるから、外部の少なくとも技術者に理解できて、それらの技術者から一般市民に説明が可能になるくらいの十分深みのある説明が必要である。