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福島原発事故とプルトニウム

中村省一郎

 

福島原発周辺の土地からプルトニウムは検出されたという報告があった。検出量は非常にわずかで、福島原発事故以前に検出された量とほぼ同じで、現在のところ危険なレベルではないと説明されている。福島原発事故以前に検出されたプルトニウムは世界の何箇所かで行われた原子爆弾実験で空中に撒き散らされたものである。それでは福島原発事故以前からあったプルトニウムと福島原発事故によって増えたプルトニウムの違いというと、その同位元素の割合が異なることにある。

 

プルトニウムはその毒性のために最も恐れられている放射性の物質のひとつである。福島原発事故でなぜプルトニウムが出るのか。以下この問題について説明する。

 

ウランを燃料とする軽水型原子炉のウランというのは、約2.5%ないし3.5%がU-235で、残りの97.596.5%はU-238である。U-235は中性子を吸収すると核分裂を起こし、熱をだす。これに平行してU-238も中性子を吸収してPu-239に変る。Pu-239は生成する率はU-235が一個なくなるとき約0.6個の割合で出来る。したがって、大雑把に言うと、1KgのU-235が消費される時、Puは0.6Kg発生することになる。このことは、ウランだけを燃料にしている原子炉でも、使用済みの燃料には大量のプルトニウムがふくまれていることを意味している。

 

原子炉内でのPuの成り行きとその性質をもう少し詳しく見よう。Pu-239はU235と同様に中性子を吸収すると核分裂をおこす。したがって、生成されたPuは直ちに燃料としての働きを始める。しかし、Pu-239が中性子を吸収したときすべてが核分裂をおこすのではなく、その中の約20%は核分裂をしないでPu-240という同位元素にかわる。Pu-240は核分裂をせず、中性子を吸収するとPu-241にかわる。Pu-241は核分裂を起こす。このように、使用済みの燃料には大量のプルトニウムはPu-239,Pu-240,Pu-241,Pu-242の混合物である。

 

さて、第3号機のようにMOXと呼ばれるプルトニウムを燃料としている原子炉があることは周知である。MOXという燃料の中のプルトニウムは全体の7%以下がプルトニウムであって、残りはウラニウムである。MOXはウラニウムを燃料として用いた炉の使用済み燃料から作られる。すでに書いたように、使用済みの燃料に含まれるPu-239とPu-241は核燃料としての価値がある。したがって使用済みの燃料をフランスなどの原子燃料処理工場で核分裂生成物を取り除いた後、ウラニウムとプルトニウムの混合物がのこるが、これに新しいU-235を加えて、燃料の中性子に対する反応性を調整してから、燃料棒に加工される。これにより、原子炉で出来たプルトニウムをリサイクルしてウラン原子燃料の費用を節約している。

 

MOXでないウラン燃料棒でも、使用しているうちにプルトニウムがたまっていて、燃料破損が起こる原子炉事故では、そのプルトニウムが炉の外に漏れることがある。ただしMOXでない燃料中のプルトニウムの量は燃料の燃焼の進み方により異なり約1%くらいが最高で、MOXに比べれば低い。

 

プルトニウムは原子爆弾の材料としてもしられている。その理由は、Pu-239はU-235より遥かに少ない量で臨海に達し、強力な爆弾となりうるからである。実際、直径10cmのプルトニウムの球をつくれば臨界に達する。しかし一方安全な取り扱いも難しく、実験中に臨海に達し死亡する事故が何度かあった。MOXからは原子爆弾は作れない。

 

次表に示すごとくプルトニウムの同位元素はすべて崩壊し放射線を出す。また、Pu-240Pu-242 は量は少ないが自然に核分裂を行い中性子を放出する。使用済み燃料中のプルトニウム同位元素の組成はすべて異なる。兵器としてはPu-240Pu-242は不純物と考えられ、Pu-239だけを分離して用いる。

同位元素

半減期(年)

放射線

自然核分裂

Pu-239

24100

a

 

Pu-240          

6560

a

Pu-241          

14.4

b

 

Pu-242           

376000

a

 

プルトニウムが人体に毒性なのはそれぞれの同位元素が放射性で、放射線がabなためである。これらの放射線は移動距離は短いが、体内に入ると細胞に対して巨大な破壊力をもつ。一旦体内に入ると内臓器官や骨にたまり体外に出るまでに何十年という長時間がかかることも害を大きくする理由である。ただしヨウ素やガス状の同位元素とはことなり、空中を移動する時は比重の高い粒子の形で飛ぶから、原子爆弾でのごとく空中に撒かれないかぎり遠方へは拡散しない。

 

プルトニウムの人体へ影響は、原爆の広島長崎での被爆者と原爆実験による被爆者の観察から詳しく調べられている。チェノビル事故では炉心の爆発のためプルトニウム被害者が出た。

 

過去の原爆実験でプルトニウムは世界中に広がり、どこの地表でも検出される。しかし微量であり、そのための人体への影響は認められて居ない。