201111

西 村 三千男 記

感想:寒い国から帰ってきたスパイ(ハヤカワ文庫NV、宇野利泰訳  1978

(原著John le CarreThe Spy Who Came in from the Cold 1963

 

一昔前の本格スパイ小説である。私の嗜好を外れたこんな一冊を読んだキッカケは、

女流サスペンス作家・高村薫氏がAERA誌の連載「平成雑記帳」に書いた辛口コラム

20101213日号)であった。

 

その論旨は、20101123に韓国領の延坪島に北朝鮮から砲撃があった2時間後の菅

首相の発言「情報の収集に全力を挙げる」の無意味さに対する厳しい批判である。総理

大臣が「情報収集・・・」と口にするなら、それは「諜報活動」に基づく「情報」でな

ければならない。しかし、発言の実態は「何もやっていない」ことの言い訳だと断じて

いる。この文脈の中で本書を紹介している。「冷戦下、東西ベルリンを分断する“壁“

のチェックポイントを行き来する西側スパイの話」であると。

 

物語は、チェックポイント(チャーリー?)を東から西へ自転車で移動する二重スパ

イが東側の哨兵に射殺される場面から始まる。西側の展望台から、仲間のスパイと米国

CIAスタッフが見ている目の前の出来事である。原著の所為か、翻訳の所為か、文章

が読みにくく、読み進むのが苦になった。それでも読了したのは、設定された時代が私

のドイツ駐在と重なること、出て来る地名(ドイツ、オランダ、英国など)とプロット

に近親感を持てたからであった。「ドイツ化学史の旅・パート2」(2007年9月)

ではベルリンを訪ねた。その機会に追憶のチェックポイント・チャーリーを再訪出来る

かも知れないと期待して、アイソマーズ通信2007年号に拙文

ベルリンの壁〜チャーリーポイントの想い出

(http://isomers.ismr.us/isomers2007/charlieptl.htm)

を寄せた。(往時、私もチェックポイントを徒歩で越える際、何かの手違いで狙撃され

る恐怖を感じていた。)

 

 ロンドンに本部を置く西側スパイの司令塔と東ドイツの諜報部門との虚々実々の闘争

が展開される。東ドイツの軍事法廷で二重スパイ被疑者を裁く裁判風景も描写される。

物語は、西側脱出へ巧妙に手引きされた物語の主人公が“壁”にやっと辿り着いた直後

に狙撃されて終わる。

 

 著作者ジョン・ル・カレは、フランス風のペンネームを持つが、イギリス生まれのイ

ギリス人である。スイスのハイスクールに学び、ベルン大学でドイツ文学を専攻した。

わずかの期間であるが、英国の諜報機関に勤務した経歴を持っている。

 

(おわり)