二つの新年演奏会

 

アメリカのPBS放送(Public Broadcast Service)で大晦日の夜と元旦の夜に二つの音楽会が放送された。大晦日の夜はニューヨークのリンカンセンターからで、ニューヨークフィルハーモニーの演奏によるバーンシュタイン作曲のウェストサイド物語の音楽とガーシュイン作曲のラブソヂーインFとラブソヂーインブルーであった。どちらも20世紀のアメリカを代表する作曲家で、よく知られた曲である。バーンシュタインの曲もガーシュインの曲も共に難曲であるが、さすがはニューヨークフィルハーモニーだけあって見事な演奏であった。

 

ウェストサイド物語はナタリーウッド主演の映画が1958に作られ、爆発的な人気を呼び、10個のアカデミー賞を獲得した。その映画が今もDVDで見られる。ウェストサイド物語の音楽は、その主題曲が編曲されていて、大勢で指を鳴らすところや、やくざの若者たちが「マンボー」と叫ぶところなどは、演奏中の手のあいている楽団員がおこない、聴衆を笑わせる。映画を思い出させ、楽しい音楽でもある。

 

この映画の撮影に使われたウェストサイドの古いアパートの建物は当時取り壊しの予定に入っていたが、この映画が有名になったため、取り壊しが数年延期された。そしていよいよ取り壊されたあとに、現在のリンカンセンターが建てられたというのだから、この曲をリンカンセンターで演奏するというのも因縁である。ウェストサイド物語の音楽を作曲したバーンシュタインは当時ニューヨークフィルハーモニーの指揮者でもあった。

 

ガーシュインのラブソヂーインFとラブソヂーインブルーはどちらもピアノ協奏曲である。ラブソヂーインFはコンサートの前半に、ラブソヂーインブルーは後半に演奏された。前者はガーシュインがオーケストラを勉強中に作曲されたといわれ、初期の作品である。曲としてはラブソヂーインブルーの方がはるかに優れた曲で、より多く楽しめる。我々が生まれる10年くらい前に作曲された。

 

指揮をしたのはアランギルバートという45歳の若い指揮者である。昨年の大晦日の演奏会でもこの人が指揮した。半分東洋人かと昨年も思ったが、今回、彼の両親についての説明があり、両親ともニューヨークフィルハーモニーのバイオリン奏者で、父親は2002年に退職したが、母親の名はヨーコタテべ(建部)で、今も演奏し続けているという。

 

ここで昭子が「エー?」と言い出した。生体協会で知り合った建部さんという名前のボストンの近くに住んでいるピアニストが何度か手紙を呉れたという。珍しい名前でもあり、二人ともアメリカに住んでいて優秀な演奏者だから、おそらく親類か姉妹なのに違いない思われる。

 

元旦のウイーンフィルハーモニーの演奏は、昨年とあまり代わり映えしない内容であった。相変わらずヨハンシュトラウスの曲が主体で、途中に出てくるバレーや、美術館の案内まで、昨年の繰り返しみたいであった。司会は、サウンドオブミュージックの主演女優ジュリーアンドリュースが行った。

 

ウイーンフィルハーモニーの演奏する音だけを聞いていると、ウインナワルツの本場の本場の楽団だけあって、その伝統的な演奏は実にすばらしい。

 

しかし画面に映されるこの楽団のメンバーを見て、アレッと思った。それはハープ奏者を除けばすべて男性のみであった。この印象は一夜まえにニューヨークフィルハーモニー(NYP)を見ただけに強かった。NYPでは女性の楽員がバヨリン、チェロ、フルートはもちろん、バスーン、バスクラリネット、チューバなどの大きな管楽器をこなしている。また東洋人の楽員も多い。能力があれば差別はしないという感じが強い。それに対し、ウイーンフィルハーモニーでは女性の楽員を一切入れないというのは、半世紀くらい遅れているのではないだろうか。

 

とは言え、ウイーンフィルハーモニーの新年コンサートはウイーン市の中央にあるケンネルリンヒ(5角形の大通り)のすぐ内側にあるムジークベラインでおこなわれ、私が1963年にウイーンのIAEA主催の学会で発表した折に始めて行った音楽堂でもあり、懐かしい。ウイーンフィルハーモニーはすぐ近くのウイーンオペラ座の演奏もおこない、小沢征爾もこの楽団の指揮者をしていた。

 

中村省一郎 1-2-2012