麹と海外での食生活

 

米麹の原料は米、水、麹菌だけである。アメリカでも郵送販売で買えるが1ポンド(450g)15ドルくらいの値段で、原料の米は種類によるが0.71.3ドルの巾内だから、原料と比べると約12~20倍の値段に跳ね上がっている。麹の作り方は複雑ではないが、素人がやると失敗がおおく、なかなかうまく出来ないと考えられている。その理由は、米の蒸し方、発酵中の温度と湿度の制御が微妙で、最適な条件を見つけることと、見つけてもその実行か面倒なためである。

 

私が約20年前東京で学会に出席した折、神田の本屋で味噌の作り方の本を買って読んだところ、著者は練馬区の中村町というところに住んでいることが分かった。本の中では、麹は素人ではうまく行かないから専門家から買え、と書いてあったが、次の日時間を見つけて、著者をたずねた。幸い著者は在宅中で、本にサインをしてくれ、麹も見せてくれたが、麹室は政府の役人にも見せないという。しかし、麹菌の選び方を教えてくれ、また真っ白な麹を見せてくれたのは、大きな助けになった。

 

旅行が終わって一段落ついてから、見せてもらった真っ白な麹を作る試みを始めた。何度か失敗するのは、勿論はじめから計算に入っている。このように分からないことを試みるとき役に立つのは、製造過程最適化の方法で、毎年学生に教えてきた方法である。大事なパラメターをよりだし、その組み合わせを変えて、結果を評価する。これを何組かの組み合わせで行ううちに、結果とパラメターの関数的関係が浮彫りになってくるというのがその概要だ。専門知識として熱伝導や対流熱伝達をうまく使う技術を熟知していることも役に立った。

 

中村町の著者が何年もかけてやっと生産できるようになった真っ白の麹が、なんと数回の試みで出来てしまったのは驚きであった。それ以来、最高の麹をいつでも作れるようになったのである。麹がふんだんに使えるようになったことは、我が家の食生活に大きな影響を及ぼした。まず麹を惜しみなく使った最高の味噌が出来るようになったし、日本酒が造れ、酒粕が惜しみなく使えるようになった。米国では日本酒を醸造することは違法にならないことも助けになる。

 

麹も酒粕も、日本食の食生活を豊かにするのに非常に役に立つ。アメリカには大味な魚が多いが、麹漬けあるいは粕漬けにすると、そのような魚が高級料亭でしか食べられないような料理になるから愉快である。また肉類を麹漬け、あるいは粕漬けにすると、たんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)により、安くて硬い肉でも、柔らかく良い味になるから、これもすばらしい。

 

酒粕の健康的効用は2011年のアイソマーズにもかなり詳しく解説したが、好きなときに好きなだけ食べられるというのは有難い。原料とは安いカリフォルニア米と麹菌だけである。

 

日本食は、酒、醤油、味噌、鰹節の基である麹を基礎に成り立っているのであって、麹がなければ、全く異なった食文化になっていたであろうという私の見方は間違っていないと思う。

 

中村省一郎  1-24-012