201220

西 村 三千男 記

「科学史の雑記帳・蘭学から洋学(英、仏、独)へ」

 

第4話 英学事始め(その3、本邦初の英和辞典)

 

「本邦初の英和辞典」をキーワードとしてネット検索すると、多数ある情報の中から

『堀達之助「英和対訳袖珍辞書」文久2年(1862)』が抽出される。

 

堀達之助は長崎生まれの蘭通詞である。蕃書調所で堀を中心とする蘭通詞のグループ

がこの辞書を編纂した。「英蘭・蘭英辞書」を底本として、そのオランダ語部分を既存

の「蘭和辞書」に依り和訳することで、底本と同じ構成の「英和・和英辞書」となる。

底本に用いた「英蘭・蘭英辞書」は、第2話に記述した福沢諭吉が入手したホルトロッ

プ版ではなく、ピッカート版。出版時には「蕃書調所」は「洋書調所」と改称していた

ので、出版元は「洋書調所」となっている。

 

初版は200部出版されたが、英学の勃興期にあたり、買い手が急増して定価2両の

ものが5〜10倍の価格で売買された。4年後の慶応2年(1866年)に改訂増補版

が出版されている。この辺の事情は文献(1)の「幕末・明治初期の英和辞典等の系譜」

(葵文庫)に図示されている。「葵文庫」とは静岡県立中央図書館内に「蕃書調所〜洋

書調所〜開成所」の旧蔵書を系統的に蔵書しているもの。

 

 辞書の外観写真と短い説明が「京都外語大学図書館」(出典2)と「一関市博物館」

(出典3)のホームページに載っている。外観写真の辞書の扉の文字が興味深い。

英名は「A Pocket Dictionary of the English and Japanese Language」と左から右へ、

和名は当時の表記の習慣通り「書辭珍袖譯對和英」と逆に右から左へ読ませる。

 

 日本最初の和英辞書は慶応3年(1867年)出版の「和英語林集成」(通称:ヘボ

ン辞書)とされている(出典4)。編集したのは医師であり宣教師のヘボン(ヘップバー

J. C. Hepburn) 。この辞書のローマ字綴りが「ヘボン式ローマ字」の元。

 

本シリーズの第1〜3話が掲載されたところで、山本經二さんから文献情報が届いた。

早川勇(愛知大学)著「和英辞書の歴史」という本格的な研究論文である。上記のヘボン

辞書から現代の和英辞書までが包括的に研究されている。

 

出典1「幕末・明治初期の英和辞典等の系譜」

http://www.tosyokan.pref.shizuoka.jp/aoi/3_genealogy/3_3_01.htm

 

出典2 京都外語大 (http://www.kufs.ac.jp/toshokan/50/eiwa.htm)

 

出典3 一関市博物館(http://www.museum.city.ichinoseki.iwate.jp/icm/02collection/det36.html)

 

出典4 「横浜の歴史〜文明開化〜もののはじめ〜和英辞書」

http://ttshi12.web.fc2.com/yokohamanorekishi/bun/yok/wae.html

 

出典5  早川勇 愛知大学語学教育研究室紀要「言語と文化」第14号(2006年)http://leo.aichi-u.ac.jp/~goken/bulletin/pdfs/No14/01Hayakawa.pdf

 

(つづく)