植物の光合成(photosynthesis

 

武山高之(2012.3.9記)

 

昨年末、サイエンス誌の「2011年の科学研究における10大成果」に、日本から小惑星探査機“はやぶさ”の成果と並んで植物の光合成が取り上げられたという報道があった。

詳しく知りたいと思っていたところ、科学技術振興機構(JST)の「さきがけ」プロジェクトの事務局をしている友人から、特別シンポジウムの案内があり、参加した。

 

サイエンス誌の10大成果には、数年前に山中伸弥教授の“iPS”が取り上げられ、その後の発展は皆さまご存知の通り。注目される記事になりそうなので、以下に紹介する。

ノーベル賞級の研究に発展するかもしれないと思っている。

 

シンポジウムのプログラムは次をご覧頂きたい。

 

Breakthrough of the Year 2011 特別シンポジウム

「酸素を作り出す植物の仕組み」

‐光合成の機構解明の現状と展望−

2012223日、日本橋三井ホール)

http://math.jst.go.jp/event/sympo.html

 

発表者は、主役の岡山大学・沈建仁(しん けんじん)教授と大阪市立大学・神谷信夫教授のほか、光合成学会会長・池内昌彦東京大学教授ら専門研究者8名であった。

 

近年、化学史に興味を持っている私は、植物の光合成の歴史にも強い関心を持っているが、門外漢である。そのため、光合成学会の存在も、光合成研究の世界における日本の位置付けも、専門家の先生方の名前さえも知らなかった。

 

シンポジウムに参加して、主役の両教授の成果は、忍耐強い地道な研究の成果であることを知り、感動した。

 

シンポジウムに先立って、サイエンス・ポータルの次の記事も読むことができたので併せて報告する。次をご覧頂きたい。

 

サイエンス・ポータル掲載記事

http://scienceportal.jp/HotTopics/interview/interview72/

 

研究の内容については、上記引用を見て頂くとして、以下に私の個人的な纏めと感想を述べる。

 

 

1)            ジャーナリスティックに「クリーンエネルギー分野が、この成果をもとに飛躍的に進歩する可能性がある」という意見も出されているが、私は

200年前から追究されてきた植物の光合成について、残された重要な問題が解明された」

という科学的成果に興味をもつ。

 

2)            「光合成200年の研究史」を次のように要約してみた。

  1771年:酸素の研究で有名なプリーストリー(英)が植物からは動物を生かし続ける空気(酸素)を出すことを見付けた。

1804年には、植物は葉から二酸化炭素を吸収して、成長することが見付っている。しかも、二酸化炭素なしでは枯れてしまうことも分かっている。これが200年前のことである。

 

「植物は光を当てると二酸化炭素からデンプンを合成し、成長すること」を見付けたのは、

ドイツ化学者で1862年のことである。

 

光合成が明反応と暗反応からなることが提唱されたのは、約100年前の1905年のことである。

 

3)            その後、1913年のヴィルシュテッター(独)のクロロフィルの研究、1955年のカルヴィン(米)の暗反応におけるカルヴィン回路の発見、1978年のボイヤー(米)のATP合成酵素の発見という3つのノーベル賞研究などを経て、研究が発展してきた。

 

そして、今回残された重要問題である「太陽光と水から酸素を作り出す要となるタンパク質・光化学系U複合体の結晶構造」が解明されたという。

 

4)            まず、この素晴しい成果が岡山大学と大阪市立大学という中堅どころの大学から出されていることが注目される。

また、岡山大学の沈教授は中国浙江農業大学出身の方で、日本の研究が国際化してきたことも注目される。

 

5)            次に、この成果が科学技術振興機構の“さきがけ”研究によってなされている。

また、神谷教授の]線結晶解析には、兵庫県にある国際的にも最高級の大型放射光研究施設・“スプリング8”が使われていることも注目される。

 

6)            今回の成果は、両教授のオーソドックスで地道な忍耐強い研究によるものであると思った。

沈教授は質の高いタンパク質複合体を得るために、再結晶化などに注意深い努力を積み上げておられる。

神谷教授は“スプリング8”を使った]線結晶解析装置の開発に長い時間をかけておられ、その結果、非常に精度の高い解析手段を手に入れている。

 

7)            沈教授の経歴は、中国の大学卒業後、東京大学・理化学研究所を経て、岡山大学教授となっておられ、専門は植物生理学、植物構造学。

神谷教授は名古屋大学卒業後、“スプリング8”の建設などに関わり、大阪市立大教授になっておられ、専門は植物構造学、]線結晶学。

今回の成果は、違った専門分野の科学者の共同研究によって達成されている。

 

日本の光合成の研究は、理化学研究所や東京大学を中心に活動しているようである。そのような研究環境を背景にして、両教授の発見がなされたのではないだろうか。