米国大統領選挙戦        

 

米国大統領は選挙で決まり任期は4年、選挙はオリンピックの年と重なる。だから、オリンピックの騒ぎが収まると、急に選挙戦が激しくなる。アメリカの政界には民主党と共和党しかないから、選挙戦といえばこれらの2党の争いに絞られる。現大統領は民主党で、今回の選挙に勝てばもう4年大統領を務めることが出来る。だから今回は民主党からの立候補はなく、共和党が立候補をだして政権を共和党のものにしようと必死になる。

 

共和党の立候補者の指名は8月27日からフロリダ州のタンパ市で始まる共和党の大会で正式に行われ、今年はミットロムニー候補が指名されることが確定している。それ以後11月はじめの選挙まではロムニ候補と現大統領オバマ氏との終盤戦となる。

 

共和党の立候補者は昨年の末ころから名を上げ始め、今年の3月ころまでにはロムニ氏にぼぼ絞られた。しかしほかにもあきらめない立候補者はいて、共和党大会で所見演説の機会を与えられるが、共和党大会での指名がロムニー候補に決まれば、それ以上立候補者としての存続は出来ない。さて、共和党大会を1週間余り前に、ロムニー候補は副大統領候補として同じ共和党のポールライアン氏を選んだ。このこと自体アメリカ中を大騒ぎさせる話題となったが、さらに蜂の巣をつついたような大騒ぎが持ち上がった。

 

大統領選挙と同時に上院と下院議員の選挙も行われる。ミゾーリ州から上院議員として立候補しているエイキン(Todd Akin)氏が記者とのインタービウで「人工中絶はいかなる場合といえども禁止すべきである。もし強姦にあっても、本当の強姦の場合は、女性の体には妊娠を拒む機能があって妊娠することはないに等しい。もし妊娠が起こったならそれは本当の強姦ではなかったのだ」といった。ライアン氏が副大統領候補として指名された直後のことで、このインタービウのビデオが全国のテレビニュースで流されたのである。一見大統領選挙とは関係ないように見えるかも知れないが、エイキン氏は現上院議員でもあり、副大統領候補のライアン氏とともに共和党議員の中でももっとも右翼で、この二人が組んで人工中絶に反対する法案を次々と提出していたのである。したがって、報道陣はエイキン氏の発言をライアン副大統領候補の見解でもあるとして取り上げたのである。当然女性からの大抗議が持ち上がった。「生物学的にエイキン氏の意見は正しくない」(注1)、「強姦で妊娠したという女性はうそを言ったことになるのか」、「ライアン氏によれば、強姦にあった女性の体は精子を殺すホルモンを分泌するらしい」などの意見が次々に出された。

 

騒ぎが大きくなる中、ライアン氏は「強姦は強姦、本当の強姦と本当でない強姦の区別はない」と弁明したが、以前の議員活動でエイキン氏と同じ見解をもっていたことが報道陣に明らかにされて、彼は信用できないというスタンプを押されてしまった。

 

大統領候補のロムニー氏はモルモン教徒である。非常に金儲けがうまく、一昨年の年収は百万ドルの200倍、つまり2億ドル(あるいは240億円)で税金はその14%であったことが知られている。税金のレポートは2年分しか公表していないから、以前には税をごまかした年もあったのではないかと疑う向きも多い。彼の財産の多くは外国の銀行に隠していることも知られている。ロムニー氏はいつもニヤニヤ笑っていて、口が軽く思い付きを良く考えないで言ってしまう傾向がある。「彼の口は頭脳との連絡が悪いらしい」という悪口が聞かれるのはそれが原因である。

 

政策の方針として、25万ドル以上の年収所得者の税率を下げること(こうすれば国内の企業活動が増えることを主張している)。しかし、それによる政府の歳入減少は25万ドル以下の年収所得者の税率を上げなければならない。健康保険制度では、オバマ大統領が大幅に改良し国民皆保険に近い政策を実施したが、これを変更し、政府の国民皆保険出費は一定の金額の支払いをクーポンの形で発行し各自で保険会社と交渉する方向へ移行する。その額は今後医療費や物価が上昇しても変えないで、健康保険に関する支出を抑える。

 

二酸化炭素増加による地球温暖化を認めない。石炭と沿岸油田採掘の規制を大幅に緩める。軍事費の大幅の増加を行う。ロムニーの政策はジョージ・ブッシュの丸写しに近いといってよい。ブッシュ大統領は9・11の危機をうまく利用して、イラク戦争を起こし無制限に国費を使い、また規制のない経済政策の結果ウォールストリートの腐敗をおこして2007-2008年の金融界危機を起こしたのである。ブッシュ大統領が記者に対して「国家の負債に関しては何も心配していない。必要な金は議会に請求すればいくらでも承認してくれる」と発言していたのが忘れられない。アメリカの悪いところは、戦争となれば冷静さを忘れて、大統領を支持することである。

 

これらがオバマ政権との目立って大きな政策の違いであるが、彼の政策方針の詳細は口を濁してはっきり述べない。ロムニー氏の主張での矛盾やオバマ大統領を誹謗するテレビ広告の誤りも数多く指摘されている。にもかかわらずロムニー氏の選挙戦をを経済的の支持する力は強い。その理由は、石油石炭産業が多額の選挙資金を醵金する、アメリカにはいまだに進化論を認めず創造説を主張する層が厚い(注2)、また黒人の血の流れるオバマ大統領を憎む人が多い。連邦政府が多額の金を健康保険に使うことを反対する人が多い。ロムニー氏の発言に矛盾があっても、資産を外国に隠していてもロムニー氏を支持する共和党の地盤があり、どんなにロムニー氏とライアン氏がたたかれても、あるレベルの支持率から落ちることはないのである。一方オバマ氏は女性、黒人、ラテン系アメリカ人、若い有権者、非常に教育レベルの高い有識者の強い支持がある。今のところオバマ氏のほうがはるかに優勢である。

 

しかし共和党が政権をとっている州では、黒人が投票しにくくなるように選挙時のルールを最近変更した。たとえばある州では、黒人の多い地域で投票時間を短くした。長時間並んでも投票できないで、投票時間が終わってしまうことを狙っているのである。また別の州では、投票には自動車の免許証が必要であるようにした。オバマを支持する層では自動車の免許証を持たぬ人も多く、選挙までに免許証を持たせることを不可能に近いという。これらの扱いが、選挙の結果にかなりの影響があることが懸念されている。

 

注1:妊娠率は強姦であるないにかかわらず5%

注2:多くの州でいまだに進化論を教えることを禁じられている。もし教えても、そういう意見もあるというところまでで、創造説と抱き合わせでないと違反となる。オハイオでは大学内では進化論が当たり前で、ある調査では、学長で進化論を否定する人はいなかった。

 

中村省一郎(8-24-2012)