アメリカ大統領選挙とドイツ化学史

 

タンパ市で開催中の共和党大会で昨日ロムニー氏の大統領候補指名が正式に決まった。共和党大会で多くの共和党要人が演説を行う。昨日はロムニー夫人と、共和党員の州知事4人がロムニーを盛りあげる演説をおこなった。共和党大会は党内の意見交換の場であるとともに、なぜ共和党の政策が民主党よりも優れているを有権者に伝える最高の機会でもあるはずだ。(注)

 

今回の選挙で焦点となるべき政策の最大の問題点は、(1)落ち込んでいるアメリカの経済をどうやって活気付け失業率を下げるか、と(2)16トリリオンドルに膨れ上がった連邦政府の赤字をどうするかである。これまでのロムニーの発言と同様に、昨日の州知事たちの発言では、自由なアメリカ、強いアメリカを訴えたが、現大統領のオバマ氏を非難する以外には積極的な方法論を提案したり論ずるものは誰もいなかった。

 

アメリカの経済が落ちこんでいることは、中産階級の平均資産がこの10年で半分に減ったことからも明らかである。不動産の価格にもバブル崩壊が起こり資産減少の原因となった。多くの人はこの5年間に年収が70%くらいに減っているし、労働者階級では職を失ってから再就職できない人が1/3はいるといわれる。連邦政府の赤字急増は、ブッシュ大統領時代に2個の戦争を始め軍需費を無制限に使用したこと、2007-2008年にかけて起こった金融危機を救うために政府が金融界を援助(尻拭い)したことによる。

 

アメリカの経済の落ちこみは中産階級の縮小にも繋がっており、また税収の減少をもたらしている。一時的な経済繁栄は消費物質の売れ行きが良くなるとか、不動産建築が盛んになるとかの形で現れることがある。しかし何がアメリカ社会の根本的な問題なのかを解明しようとする人はほとんどいない。

 

アメリカ経済の根底にある問題は、製造業の廃退である。これは1960年代に日本が製品をアメリカに輸出し始めたときに始まり、アメリカの鉄鋼会社をラストベルトと呼ばれる廃拠にしてしまった。1980年代には日本の自動車輸出がアメリカに日本製の車をあふれさせ始めた。1990年代には多くの経済雑誌などが21世紀にはアメリカの製造業での職は激減し、サービス業だけが栄えるだろうと予測をした。アメリカの製造業の多くが国内生産をやめ、中国へ外注するのがあたりまえとなった。2000年に入ると、中国製の製品があふれるようになり、高度な電気製品には韓国製が目立つようになった。現在韓国製の自動車は猛烈な勢いで売り上げを上げている。最近我が家では古くなった電気器具や家具の更新をおこなったが、冷蔵庫、洗濯機、衣類乾燥機、大型テレビは韓国製、ソファはイタリア製、コンピューターではアップルの製品とラップトップは中国製、といった具合にアメリカ製は見つからない。買おうと思っても、たとえば冷蔵庫と洗濯機にはアメリカ製はあっても技術が追いついていないのであきらめるしかない。

 

アメリカの経済を根本的に改善するためには製造業の復活が欠かせない。しかし、どのような解決法があるかは政治家は誰も考えようとしないし、意見も述べない。その鍵は、日本の経済発展の歴史、韓国がどのようにして世界のトップに踊り出てきたのかの政策と社会的背景、中国との関係をどのように変えてゆけるかの見通し、またドイツがなぜヨーロッパの中でもっとも経済的に強い国なのかを学ぶことにあると思われる。

 

このような観点からみて、アイソマーズのドイツ化学史の旅とその後での発表の努力は、ドイツ化学だけではなく科学全般およびドイツの技術発展を我々が理解するうで大きな役割を果たした。ドイツの19世紀の化学発展は核物理の発展を促し、さらにはWW1とWW2の間にも多くの技術発展に受け継がれた。WW2間のロケットとジェットエンジンは他の国では当時追いつけなかったのである。戦後その技術はロシアとアメリカで受け継がれた。またWW2後、爆撃で徹底的に破壊された瓦礫の中からドイツは立ち上がり、やがてヨーロッパでは他国が追随できないような技術のレベルと経済発展をもたらした。ドイツ人の社会にはどんな思想と信念が流れているのだろうか。

 

アメリカの経済の建て直しをやれると主張している政治家たちの演説を聞いていると税率を変えることで景気を刺激して雇用率をあげるようなことばかりで、時間のかかる教育制度の改革や長期の見通しに基ずく政策というもが何もないのである。ドイツ化学史の旅はアメリカの政治家たちにも必要だ。

 

(注)共和党というのは、進化論をも受け入れない白人でキリスト教がほとんどで、黒人、ラテン系アメリカ人、東洋人の増えている現在のアメリカ人を反映していない。

 

中村省一郎  8-29-2012