再生医学研究の最前線」

‐文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク、第4回合同シンポジウム‐

参加報告

 

武山高之(2012.8.2記)

 

報告が遅くなりましたが、6月17日に横浜パシフィコで表題のシンポジウムが開催され、アイソマーズの西村三千男さん、山本經二さんと3名で 聴講しました。

シンポジウム後、イタリアン・レストランで食事、有益で楽しい半日を過ごしました。

注目されているiPS研究の最近の状況について、報告します。

 

若い人も含め約1000名。iPSは一種の社会現象に

 若い男女や、車椅子の人など難病の患者さんと思われる人も含め、1000人以上の人が聴講していました。iPSの発見者の山中伸弥教授ほか、演者の皆さんが分かり易い講演をされ、印象に残るシンポジウムでした。

 横浜市の計らいで、高校生100人が招待されていました。今や、iPS研究に対する一般層の人たちの関心は、一種の社会現象のように、高まっているように思えました。

今後の日本の科学技術の発展にとって、嬉しいことだと思いました。

 

iPSオールジャパンの推進体制

 まだ、臨床の報告は見られませんが、もうすぐのところに来ています。国が率先し、推進体制をとっており、急速に研究が進んでいます。研究内容は、難病の仕組みの解明、癌などに対する創薬の開発、再生医療に渉っています。

 

その様子はこのシンポジウムの後、テレビや新聞紙上でも報告されています。例えば、7月3日のNHKクローズアップ現代にも報告されていました。6月28日の日経新聞夕刊には、このシンポジウムの演者でもあった慶應大学の岡野栄之教授から「試験管で完全な神経‐iPS細胞から培養」と報告され、7月3日の日経新聞朝刊には、「iPS細胞使った再生医療。目の難病で実現間近、普及への企業の力欠かせず」と報告されています。

 

欧米との競争では、米国では民間が主導している違った進め方がされています。宇宙開発でさえ、民間の力が期待されている米国ならではの動きではないでしょうか。

 再生医療は欧米に遅れをとっているわけではないが、創薬では民間が主導の米国が先行しているそうです。

 

急速な発展

 今回のシンポジウムの演者は、

山中伸弥・京大iPS研究所所長「iPS研究の進展」

家田真樹・慶應大学医学部特任講師「心筋細胞直接誘導による新しい心筋再生法の開発」

高橋淳・京大iPS研究所准教授「iPS細胞を用いたパーキンソン病治療」

岡野栄之・慶應大学医学部教授「iPS細胞技術と直接誘導法を用いた神経系の再生・疾患研究」

でした。

 

山中教授が動物実験で、iPS細胞を確認したのが、2006年。ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作るのに、成功したのが、2007年秋のこと、それから5年しか経っていませんが、随分と急速に発展していると思いました。

急速な発展には、10年以上前からES(胚性)幹細などの幹細胞研究が先行していたことがあると思います。(例えば、蛋白質核酸酵素20009月増刊「再生医学と生命科学」)

そのために、動物実験のためのモデル動物も充実しているように思えました。

 ところが、ES細胞による再生医学は倫理上の問題があり、ヒトへの適用に閉塞感があったようです。iPS細胞の発見が、その閉塞感に風穴を開けることになったようです。

 

 今回のシンポジウムでは、慶応大学からの2つの報告のように、iPS細胞を経ない直接誘導法のような発展系も報告されました。家田真樹特任講師の報告は、マウスの実験ですが、3つの遺伝子を心臓に直接投与することにより線維芽細胞を心筋細胞に変換するものでした。同じく慶応大学の岡野教授の報告は、脊髄損傷したマウス・サルのモデル動物で、直接誘導法で神経系の再生でした。

 

直接誘導法の他に、とくに再生医学面で興味深く思ったものを3つ挙げます。

 

1)iPS細胞ストック

 山中教授から、

「今後の細胞移植治療を考えたとき、樹立に要する時間短縮やコスト削減を図る必要がある。そのため、様々な移植適合型の提供者からiPS細胞をあらかじめ樹立しておく「再生医療用iPS細胞ストック」を整備するため、京大付属病院内にiPS細胞臨床開発部を設置した」

との報告がありました。

 

2)神経系疾患に対する細胞移植法

 高橋准教授および岡野教授からの報告は神経系疾患に対して、iPS細胞懸濁液を体内に注射する方法で、細胞移植する方法が報告された。細胞シートを体内に移植する方法よりも,iPS懸濁液を体内に移植することで効果が期待できる血液系や神経系の疾患が最初のターゲットになっているようでした。

 

3)眼科における細胞シート移植

 網膜疾患に対する細胞シートの移植も近未来に達成できそうなターゲットでした。

の方法は女子医大の岡野光夫による高分子スキャホールド(足場材料)を使っているという点で、我々化学屋に最も関心の高い分野です。

 眼科領域は移植が簡単で、かつ万一、発癌が問題になった時でも、もっとも発見しやすく早期治療が可能だといいます。