福島原発の大規模な再臨界は絶対に起こらない   (7-24-2013)

中村省一郎

 

羽場麻希子・小嶋 稔氏の論文「福島第一原子力発電所事故: 再臨界の可能性は?──オクロ天然原子炉の教訓」[1]には二個の主題が含まれている。一つは自然原子炉、もう一つは福島原子炉で再臨界の可能性についてである。そして、この二つの主題は一つにつながり、自然原子炉は高密度の出力を出したのだから、溶融した福島原子炉も再臨界を起こし高密度の出力を出す危険があるという危惧になる。私は職業経歴の丁度半分を原子炉技術者としてすごしたが、専門は原子炉の臨界であり、理論、実験および実際の原子炉の臨界にかかわる仕事をし、また論文の発表もおこなった。自然原子炉および福島原子炉の再臨界は非常に興味深い話題である。そこで二三私の見解を述べてみたい。

 

自然原子炉と軽水炉

 

まず、ウラン235の濃度が現在の天然の濃度0.72%で原子炉が存在しえるかどうかについて考察しよう。天然ウランを用いた原子炉が臨界になるには2つの条件が満たされなければならない。第一は天然ウランは棒あるいは球形にしなければならないこと。第二は減速材に中性子吸収の非常に低くしかも原子量の低い材料が用いなければならない。その材料は、重水、炭素およびベリリウムである。軽水は中性子の減速には適しているが水素はかなり大きい中性子吸収をおこなうので、天然のウランを用いては臨界が不可能である。

 

軽水は中性子吸収がかなり大きいこと以外は、熱除去の材料としては優れている。このために現在の動力炉は軽水を用いているが、中性子吸収の大きなことの不利を補うために、低濃縮ウラン(約3%前後)を用いる。それでも先に述べた棒状あるいは球状の条件を満たさなければならず、軽水炉では直径約9mmの棒状の形状に加工して用いている。このことは事故を起こした原子炉の再臨界の可能性を考える場合重要になる。

 

ここで、なぜ原子炉のウラン燃料の形状を棒状あるいは球形にしなければならないかを説明しておこう。原子炉内で起こっている中性子の連鎖反応には中性子のライフサイクルが繰り返されている。中性子はU235が中性子を吸収すると、およそ80%の確率で核分裂をおこし、約200Mevのエネルギーと平均2.4個の中性子を放出する。その中性子の平均エネルギーはほぼ2Mevであり、これらの中性子は原子炉内のさまざまな原子と衝突しエネルギーを失うが、最も大きなエネルギーの減少は減速材との衝突、つまり軽水炉なら軽水素原子と衝突した際におこる。中性子は軽水素と約18回衝突すると、熱エネルギーの領域(0.1ev以下)に入る。中性子がU235に衝突してU235の核分裂を起こすのは、主に中性子が熱エネルギーの領域に入ってからである。中性子が減速段階で熱エネルギー領域に入るまでは、高速中性子とよばれる。

 

さて、ウラン燃料を棒状にするのは次の理由による。高速中性子の限られたエネルギー領域ではあるが、U238は高速中性子を吸収するおおきな力を持っている。したがって、高速中性子がU238と衝突する機会をなるべく減らさなければならない。前にも述べたように中性子の減速は軽水中でおこなうので、ウランを軽水とは空間的に分離して、軽水中で減速する中性子がウランに当たらないようにすればよい。これはウランを棒状にすることで、完全ではないが十分目的が達せられる。しかし、棒の直径を大きくしすぎると、熱エネルギー領域に入った中性子が、燃料棒に入りにくくなり、軽水による中性子吸収の率が増えるので好ましくない上、熱はウラン燃料棒の中で起こるのでその熱除去が困難になるので、現在用いられている約9mmは最適設計で決められた直径なのである。このようにU238の吸収を減少するために燃料を棒状(あるいは球状)に設計する炉を非均質型原子炉と呼ぶ。このような設計でも、中性子が高速エネルギーの間にU238に吸収される確立はおよそ25%と高い値である。

 

ウラン燃料を棒状にしない原子炉

 

この種の原子炉は均質型原子炉と呼ばれている。東海1号原子炉は球形の容器にウランの水溶液をいれたものであった。ウラン燃料が棒状あるいは球状になっていないので、天然ウランでも低濃縮ウランでも臨界に出来ないためかなり濃縮度の高いウランが必要である。また炉が小さいほど、中性子の漏れが大きいので濃縮度をより高くしなければならない。

 

濃縮ウランの水溶液が意図せずに臨界になるのが臨界事故である。このような事故は原子力の初期にアメリカの原子燃料再処理工場で起こったことがある。その教訓にまったく無知のために、日本のJOCで手作業で高縮ウランの加工をしていて臨界事故を起こした。言い換えるなら、意図せず「ウラン燃料を棒状にしない原子炉」が出来ていたのである。

 

均質型原子炉には金属ウランを薄板に成形し平行して並べた原子燃料を用いた炉も含まれる。(金属ウランは腐食を防ぐために金属被服で覆う)。この場合ウランを棒状にした効果が出ないので、原子炉の特性は均質原子炉とまったく変わらない。やはり高濃縮ウランが必要である。

 

高速炉

 

以上に述べた原子炉はいずれも熱中性子炉と呼ばれる型で、熱中性子がU235に衝突し主な核分裂を起こす。これに対して高速炉では中性子減速材を用いない。したがって中性子は減速はするが、一回の衝突ごとのエネルギーの減少はわずかで、高エネルギーのままで炉内を動き回る。その間にU235と衝突してU235の核分裂をおこす。しかしU235の濃度を高濃縮ウランの程度にあげないと、中性子のU238による吸収と炉からの漏れのに打ち勝てないために臨界を保つことが出来ない。高速炉では冷却などの目的で、燃料を棒状に設計するのが普通であるが、前節に述べた観点からすれば、均質型原子炉である。

 

臨界と原子炉の制御

 

原子炉が臨界になると、単位時間(1秒)ごとの核分裂の量は一定になり、熱出力は一定となる。超臨界では核分裂の量は時間と共に増加し、未臨界では逆に核分裂の量は時間と共に減少し、やがて原子炉が停止の状態になる。原子炉の出力を増加あるいは減少させるためには、ある時間の間超臨界あるいは未臨界の状態にする。

 

このような超臨界、臨界、未臨界の状態はどのように起こすかというと、原子炉内には中性子を吸収する制御棒が備えられていて、制御棒の位置の調整によって臨界が達成され、その状態から制御棒を少し抜くと超臨界となって出力の増加が始まり、一方少し挿入をすると未臨界となって出力の減少が始まる。中性子を吸収する材料の代表はホウ素であり、ステンレス鋼のパイプにホウ素の安定な化合物をつめたのもが多くつかわれる。またホウ素と鉄の合金が用いられることもある。その他制御棒にはハフニウム、銀、インヂウム、カドミウムを用いた設計もある。鉄だけでも微調整用の制御棒として用いられることもある。

 

原子炉の状態を表す量に反応度がある。これは原子炉から制御棒を全部抜いたときの超臨界あるいは未臨界が臨界からどのくらい離れているかを表す量である。その定義を非常に大雑把な表現で表せば、一個の中性子がその一生に何パーセントの中性子を増やしたか、という量である。たとえば平均して次の世代の中性子の数が1.1個になったとすれば反応度は+10%、0.9個なら-10%である。反応度が+10%の原子炉が丁度臨界を保っているときは、+10%の反応度は制御棒がおさえている。同様にもし未臨界の原子炉の反応度が-10%であれば、反応度10%分の制御棒を引き抜くか、あるいは反応度10%分の燃料を補給するか、あるいは反応度10%分のウラン濃縮度の増加をしなければ臨界にならない。

 

自然原子炉の臨界

 

小林氏の記事には述べられていないが、自然原子炉には熱中性子炉と高速炉の両方があり得る。まず熱中性子炉の場合から考えよう。洞窟の中の孤立した純粋な水の池を想像しよう。大きな池でもよいが、小さいものなら直系と深さ共に数mくらいを仮定する。この水には水溶性の天然ウランが溶けている。この池はウランの濃度が十分に高ければ先に述べた均質性の原子炉の条件を満たしているので臨界になる。

 

オクロ(Oklo)自然原子炉はウラン鉱石を含む鉱山の岩の中で起こっていたことが判明している。ウラン鉱石は棒状あるいは塊状の近い形をしていた可能性が高い。水はプールを形成していたというよりは、岩石の隙間を流れていたと考えるべきであろう。軽水減速炉が大きな熱出力を出すには、高い圧力が必要である。なぜなら低圧力では水は直ぐに沸騰し、減速力を失うからである。自然原子炉が岩石の中で起こっていたとすれば、高圧力の可能性は満たされるであろう。

 

しかし、オクロ自然原子炉がどのような形状で臨界に達していたかについては詳細は解明されていない。ウラン鉱石が岩石の中に埋まっている様子の写真はあるが、20億年前の鉱石の形状は現在とはまったく異なるかも知れない。いずれにしても、鉱石の形状、周囲の岩石の組成と形状がわかれば(あるいは仮定をすれば)、計算機による正確な臨界のシミュレーションは可能である。

 

さて、高速炉はウラン濃縮度が少なくとも10%以上必要である。しかし、時代を遡るほどウランの自然濃度は高くなるので、現在考えられているオクロ自然原子炉の「20億年前」をもう数倍遡って「40あるいは80億年前」遡ると可能かも知れない。

 

福島原子炉で再臨界はありうるか

 

小嶋氏の論文では、オクロウラン鉱脈で自然原子炉ができたのだから、福島原子炉の熔けて崩れ落ちた炉が再び臨界になって大量の熱と新しい放射能を発生するかもしれないと危惧している。

 

原子炉が事故を起こしたときには、ECCS(Emergency Core Cooling System)が働き、ホウ素の水溶液を炉心に注入する。前にも述べたようにホウ素は中性子を強力に吸収するので、炉心の破損、非破損にかかわらず、炉の臨界はありえない。もしECCSが働かなかったとしても、外部から水を注入できる限り、炉の管理者はホウ素の注入を怠ることは許されない。福島原子炉では海水の注入が行われた。海水に含まれる塩の塩素は大きな中性子吸収力を持つから、臨界を抑制する効果はある。

 

原子炉の緊急時には制御棒が直ちに挿入され、これだけで臨界を停止させる。もし地震などで制御棒が直ちに挿入できなくても、ホウ素の水溶液の注入が炉を停止させる。

 

炉心が破損して燃料棒のなかの酸化ウランペレットがばらばらに下へ落ちる場合、さらにこれらが溶融して大きな塊になることがあり得る。実際福島原子炉の中はこういう状況にある可能性が高い。この場合、制御棒も破壊して混ざっていれば臨界は起こりえないし、また圧力容器や構造物である鉄の合金が混ざっているれば鉄は中性子の吸収が大きいので臨界の可能性はなくなる。もしも制御棒や鉄の破片が関与せず、酸化ウランペレットだけがが圧力容器の底、あるいはそれを突き破って格納容器のそこまで落ち、溶融物にならずばらばらのまま水に浸かっている場合は、ホウ素が混ざってなければ臨界はあり得る。しかし、すでに書いたように、炉の管理者がホウ素(ホウ酸などの水溶液)の注入を怠っていることはありえないので、このような臨界は考えられない。

 

しかし、もし臨界がおこったとしても、臨界になった場所の圧力が高くない限り多量の核反応と高密度の熱発生は起こらない。その理由は、軽水炉では、出力が上がると水の温度が上がり、沸騰がおこる。そうすると中性子のもれが大きくなり、臨界はとまってしまう。沸騰型動力炉(BWR)で大きな連鎖核反応と発熱が起こるのは、75気圧という高い気圧にしていて、BWRの場合炉の中の一部でしか沸騰が起こらないようにしているからである(PWRでは150気圧)。もしBWRかPWRが大気圧で臨界になったとすると、出力は低いままか、あるいは間歇的に臨界-沸騰-未臨界のサイクルをくりかえし、あるレベル以上は絶対に上昇しない。

 

結言

 

福島原子炉の内部の状態は推測する以外に知る方法はない。これを計算コードなどでシミュレートするには幾つもの仮定が必要となる。任意の仮定をすれば、いくらでも再臨界の予想はでてくるであろう。一方、福島原子炉は東電の管理下にあり、ホウ素の濃度を常に安全域に保つなどの管理をしている限り、自然原子炉の臨界に似たことは起こらない。

 

[1] 岩波 「科学」 201212月号, 羽場麻希子・小嶋 稔 福島第一原子力発電所事故: 再臨界の可能性は?──オクロ天然原子炉の教訓 ・・・・・ 

 

筆者はオハイオ州立大学機械科原子工学科名誉教授

原子炉臨界の専門家であり、日本原研の複数の研究原子炉の設計、および動力炉の解析を行い、後にコンサルタントとしてウェスチングハウス原子力部門の原子炉技術開発に大きく貢献した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溶液、あるいは純粋な炭素と天然ウランの固体混合物が存在すれば成り立つ。重水あるいは炭素は高速中性子の減速材として働く。天然の炭素はダイアモンドとして存在するが、グラファイトあるいは無定形の炭素として天然のウランと混合体で存在出来るとは考えられない。

 

水と天然ウランとでは水の水素原子の中性子吸収断面積が大きすぎて、臨界にはなりえない。しかしウラン235の濃度を天然のよりも高くしてゆくと臨界になる。その例は東海1号原子炉であって、正確な直径は覚えていないが、数十センチメートル直径の球形の容器の中に、ウランの水溶液が入っている。

 

これは非常に安全な原子炉で、臨界になって熱が出ると水溶液が沸騰する。そうすると泡のために水の平均密度がへり、中性子が原子炉から逃げやすくなる。それで炉はたちまち未臨界になって