平成25630

西 村 三千男

私の心臓手術(その6:U先生の流儀)

 

いよいよ開胸バイパス手術が不可避となった時のU先生との会話。

西村:手術時間はどれくらい?入院期間はどれくらい?

U先生:すべては「早期社会復帰のために」を判断基準としている。以前は「心臓手術は遺言書を書いてから」といわれるくらい生命に危険な手術であったが、今では何処で手術をしても生命の危険は少ない。手術後の早期恢復、早期社会復帰が、専門病院の間で競っている今日的課題である。手術時間も入院期間も早期恢復、早期社会復帰を目指す立場から決まる。

 

U先生は、心臓血管外科の学会発表の演題にも、市民公開講演会の演題にも、病院のパンフレットの説明にも「早期社会復帰を目指す・・・」を枕詞として前付けされている。

 

手術時間:開胸バイパス手術の所要時間は23時間であるが、時間が延長になるケースの主な理由は(U先生の場合)止血処理である。止血が完全だと回復が早い。手術時間を多少延長してでも完璧な止血が患者の利益となる。

入院期間:入院期間は3週間(手術前に1週間、手術後が2週間)を目安と考える。手術の1週間前に入院させるのは予備検診の外に「リハビリの予行演習」のためである。リハビリ予行演習によって患者本人と理学療法士とが患者の身体能力を把握する。理学療法士は手術後のリハビリの設定目標を主治医に提案できる。退院は「リハビリの進捗度合い」で決まる。日常生活に不自由しない恢復レベルを確認して退院許可となる。

リハビリICUを出たら、なるべく早めにリハビリを開始する。昔は心臓手術で開胸した場合、3ヶ月間は上膊を下げたままで安静にしていた。これでは、特に高齢者は恢復が遅れることが判ってきた。今日では手術翌日から上膊を持ち上げて運動する。病院には医師や理学療法士がいるので、思いっきり大胆にリハビリ運動ができるが、退院すると自宅では不安が先だってリハビリは控えめになってしまう。「早期退院」は必ずしも「早期社会復帰」と一致しない。

人工心肺装置U先生は全てオフポンプ手術であるが、万一に備えて毎回「人工心肺装置」をスタンバイさせておく。これまで一度も使った実績はない。

輸血、自己血貯血:漏出した血液は全て濾過処理して体へ戻す。輸血は感染症リスクがあるので、避けるのが賢明である。これまでの手術実績で輸血は1件もない。手術までに余裕があれば、事前に「自己血貯血」を準備しておいて、万一輸血が必要になった場合にはこの貯血を充てる。

普通食:手術直後から病院の「普通食」を自力で食べさせる。食欲がなくても、自力で一口でも二口でも食べること・・・それが早期回復につながる。一食ごとに恢復が早まる。栄養剤の点滴では恢復は遅れる。

シャワー:ガーゼ包帯が外れたら、なるべく早期に、なるべく長時間、シャワーを使う。それも治療のうちと考える。

                               (つづく)