2013

西 村 三千男 記

ラズベリーケトンとロドデノール(美白化粧品)

 

 近頃、「カネボウ美白化粧品の白斑被害」の話題がメディア社会面を賑わしている。去る92日の「NHKクローズアップ現代」もこの話題をとりあげて、「最新報告・カネボウ“美白”問題」と題して科学的に踏み込んだ分析を加えていた。問題の美白成分「ロドデノール」の化学構造式を図示して、「ラズベリーケトン」のケトン基を水酸基に変えただけのものであると指摘されて始めて気が付き「ん?」となった。アイソマーズ通信2010年号 にラズベリーケトンにまつわる「格別な、いささかの思い出」を述べた。

連載「余談・ドイツ化学史の旅」 第16回 ラズベリーケトン

http://isomers.ismr.us/isomers2010/annex316.htm

その中で述べているが、電化がラズベリーケトンをクロロプレンモノマーの副生物を利用して細々と事業化したのは1990年頃のことであった。ちょうどそのタイミングで旧カネボウがラズベリーケトンの生理活性効果(就中、痩身ダイエット効果)を若い女性の衣・食・住の全般に活用しようと大々的キャンペーンを展開。電化の副生ラズベリーケトンは直ぐに霞んでしまった。当時のカネボウのCMはネイティブ英語のナレーション“For beautiful human life KANEBO ”で結んでいたのが耳に残っている。ラズベリーケトン(raspberry ketone)[4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanone]のケトン基が水酸基に変われば、美白成分ロドデノール(rhododenol)4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanol]となる。その頃、上市されていたのはラズベリーケトンまでで、ロドデノール配合の美白化粧品が開発されたのは、カネボウ本体が破産(2005)し、カネボウ化粧品(株)が花王の100%子会社となったずっと後年(2007-8)のことであった。

                             (おわり)

 

補遺】

 会社生活のライフワークとなった「電化クロロプレンゴム事業」は1962年のスタートであった。昨年2012年が50周年に当たり、記念誌を編集刊行した。編集に際して、上記の副生物についてあらためて想起した。パイロットプラントでモノマーのR&Dを担当し、若さと蛮勇で設計した電化プロセスでは、アセチレンを2量化したビニルアセチレンに塩化水素を付加してクロロプレンモノマーを合成する。塩化第1銅触媒の作用下でビニルアセチレンに塩化水素を付加する。その際、主たる副生物ジクロロブテンの他に微量のメチルビニルケトン[3-buten-2-one]が副生する。これは、それ自身も重合性があり、クロロプレンモノマーの重合挙動に悪影響する。実はこの微量副生物の存在はパイロットプラントでは把握していなかった。本プラント1号機で微量副生物が循環蓄積しているのを、重合異常の原因を追跡していてやっと発見した。ほろ苦い想い出である。