緊迫するシリアの情勢

 

8月21日にシリアのダマスカス近郊でサリンによる攻撃で多数の民間人が死亡した。アメリカ内では武力行使を主張するタカ派が、大統領の武力行使による介入に踏み切らないのを非難して、こんなことではアメリカの信用が失墜すると毎日のようにわめきたてている。大統領は二年前に、もしシリアが化学兵器を使用するなら、そのときは武力介入を行うと発表した。だから、そのような約束をしておいて、いまさら何をぐずぐずしているかと、ミサイル打ち込みの用意は出来ているのに攻撃開始に踏み切らない大統領を非難するのである。

 

アメリカが武力攻撃を行うのは、国際法違反である化学兵器使用をなくするための、人道的攻撃であることが明確にはされているが、タカ派の主張には、このような攻撃がどのような結果をもたらすかについての見通しがほとんどないのが特徴である。

 

数日前からUNのチームがサリン攻撃で死者の多数出た地域の調査を行って、100%の確実性はないもののシリアの政府の仕業に違いないと結論をだしている。このチームは土曜日にはUNの本部にもどり最終報告を行う予定である。

 

一方ホワイトハウスからは、大統領は多数の案を検討中、ということしか報道されてこない。アメリカが武力行使をしても、トマホークミサイルをシリアの軍事施設に撃ち込んで、軍事力を極力弱くすること以外に、空軍の攻撃や地上部隊を送りこむことは考えていない。

 

アメリカでは議会の承認なしに大統領の決断のみでこのような攻撃を行うことが可能であるが、英国、フランス、トルコ、さらにはサウジアラビア、などの友好国がどのように協力を参加をするかで大きく影響される。中でもアメリカにとって英国の重要性は大きい。英国議会で英国がこのような攻撃に参加するか否かの投票が昨日現地時間の夜10時半ころ行われた。決議の結果は、賛成が252票、反対が285票で否決された。(その投票と開票結果の発表はCNN放送局の画像に写しだされた。)そしてアメリカの政治界は大きな衝撃を受けた。否決の理由は、シリアの政情は非常に複雑で、西側諸国が影響を与えられる可能性は極めて少ないということである。また化学兵器の使用はシリア政府がやったという明確な証拠は得られていない。さらに、イラク戦争開始の際当時のブッシュ大統領の戦争開始のもっとも大きな理由は、サダムフセインは化学兵器を持っているという情報であり、英国は直ちに参加をきめた。しかし、イラクを占領後明らかになったことは、フセインが化学兵器は持っていなかったのである。このことが、米国への不信感を大きくしている。

 

アメリカ内でも慎重派の意見が非常に多い。

 

ミサイルを撃ち込むことは直ちに出来るが、その後始末っがどうなるか見通しがつかない。もしアル-アサドを倒したら、誰が次の政権を受け継ぐのか。アルケイダの勢力が大きくなり、政権はアルケイダにとられる可能性が大きい。

 

シリアを支持しているロシア、イラン、中国が同様に出てくるかわからない。少なくともシリアに大量の兵器を送り込む結果となるだろう。

 

いっぽう、ミサイルの攻撃を受けたシリアは、反撃に出るだろう。イスラエルがその犠牲になる可能性が多い。

 

そもそも、世界のどこかで問題が起こるたびに、なぜアメリカだけが率先して出て行かなければならないのか。シリアの問題では、なぜサウジアラビアが出て行ってアサドをけん制しないのか。なぜ直ぐ隣のトルコがやらないのか。

 

トマホークによく攻撃は非常に精度の高いものではあるが、軍事施設を破壊するつもりが誤って病院や民家を破壊しないという保証はない。そのような実例は過去にある。

 

ロシアのプーチンはアメリカの攻撃に猛反対しており、もしアメリカが攻撃を始めたら、来週ピータースブルグである世界首相会議に出席するオバマ大統領は非常に気まずい思いをしなければならない。

 

トマホークミサイル攻撃の可能性は、英国議会の決議をきっかけに後退してゆくのではないかと思われる。

 

 

中村省一郎   8-30-2013